『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』(アンドリュー・ロウラー著 インターシフト刊)

鳥インフルエンザにより、新潟の養鶏場で23万羽の鶏が殺処分されている、などといったニュースが流れている。この手のニュースが流れるたびに、一つの養鶏場にそんなにたくさんの鶏がいるのか!
と驚いてしまうのだが、実は、世界には常時200億羽以上の鶏が生息しているそうだ。

人間1人につき3羽。これを単純に当てはめれば、東京23区には4千万羽の鶏がいなきゃならないことになる。

もちろん実際にそんなことはなく、地球上にこんなにもたくさん鶏が生息していながら、我々は日常的にはほとんど生きている鶏の姿を見ることはない。

今回取り上げる本は『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』(アンドリュー・ロウラー著/熊井ひろ美訳 インターシフト刊)。本書を読むと、われわれが、世界中でもっと多く飼育されている(世界中の犬と猫、豚と牛の数を足しても鶏の数には敵わない)この鳥のことをいかに知らないかに気付かされる。

鶏の野生種を知っている人はどれぐらいいるだろう?
それは南~東南アジアに生息するセキショクヤケイという鳥だそうだ。
だが、その鳥は極めて用心深く、とんでもなく臆病。野鳥飼育のプロをして「決して人に慣れない鳥」だというから、それがどうやって人とともに暮らす家禽となったのか、いわば「鶏のルーツ」からして謎に満ちているのである。

鶏が人類とともに暮らすきっかけになったのは、当然食肉や採卵のためだと思うかもしれない(私はそう思った)。しかし実際は、朝夜明けとともに鳴くことや、その美しい姿により、信仰や儀式に必要とされたからだという。
そして世界各地に爆発に広まった理由は、闘鶏という娯楽が世界中で受け入れられたからなのだ。すなわち、狭い鶏舎で極めて効率的に肥育された鶏たちが世界中の人類の胃袋を満たすようになったのはつい最近のことというわけだ。

世界中の胃袋を支える鶏たちは極限まで品種改良され(毎年「最新モデル」が発表されるそうだ)、世界中のブロイラーの品種は3つの会社に寡占されている。そうやって大量に生み出された最新モデルの大量の鶏たちが、日々太らされ、殺され、商品になっていく過程は、やはりどこか異常さを感じてしまう。

世界中で大量に生息していながら、都市部の住民の身近にはほとんどいない。その事実自体がこの鳥をめぐる歪んだ構造を象徴しているように思う。人間の都合で改造され続け、狭い鶏舎にぎゅうぎゅうに押し込められながら200億羽にまで増殖し続けている鶏の現状は、欲望を極めた人類の写し鏡のようにも見えるのである。