『洞窟ばか』 吉田勝次著

著者の吉田勝次さんをテレビで見たことがある人もいるかもしれない。
幅が17センチあれば、岩と岩の間の狭い隙間にもぐってしまう「変な人」として(ごく一部で?)話題沸騰の人物だ。

そんなところに潜り込むのは、まだ誰も足を踏み入れたことのない洞窟を見つけたいから。彼は洞窟探検家なのだ。狭い隙間の奥には広く大きな洞窟が広がっているかもしれない。だから彼はここぞと思った隙間に体を滑り込ませるのだ。

狭い隙間の中で、想像するだけでぞっとするような状況に追い込まれる。例えば、入り込んだはいいが、下が泥だったためそのまま45度ほどの斜面でそのままズルズルと滑っていき、体がちょうど穴にハマってしまう形で止まる。暗黒のなか、すっぽりと岩に挟まれ、まったく身動きが取れない状態。このままでは死んでしまう。しかしそういうときにパニックになれば、より死が身近に迫ってくる。冷静になってみると、体はまったく動かせないが指だけは動かせることに気づく。そこで彼は、指だけの力で滑り降りた斜面をじりじりと後ずさりし、何度も滑って元に戻りながらも、なんとか外界に戻ることができたという。

あるいは、深さ300メートルある縦穴に降りて探検をした後、ロープで地上に戻るとき、にぎりこぶし大の落石が、肩に当たったことがある。体が吹っ飛び、激痛が走った。骨折し、左の肩と手が動かない。それでも右手だけで実に30時間かけてロープを登りきり、なんとか地上に出たそうだ。途中、何度もロープにぶら下がったまま眠ってしまったという。

洞窟の魅力に取り憑かれ、何度も死にかけながらも探査を繰り返す吉田さんは、実際、未踏の洞窟をいくつも発見している。ベトナムで発見した洞窟は、ベトナム初の溶岩洞窟で、国をあげてジオパークにする計画が進んでいるそうだ。

著者を駆り立てるのは「未知の場所を探検したい」という猛烈な欲求。そのために体を鍛え、地質学や水文学などのさまざまな学問と学び、また技術を磨いて自分の持てるものすべてつぎ込んで洞窟に挑む。その猛烈なエネルギーと情熱に、呆れつつも勇気づけられるのだ。