『笑うお葬式』

’17年3月、文藝春秋と吉本興業が組んで「文藝芸人」というムック本を出した。いわゆる「又吉ブーム」に乗って出版された一冊といえそうだが、意外に中身は濃く、徳井健太の自伝的小説「団地花」や、今『革命のファンファーレ』が話題となっている西野亮廣のエッセイ「『えんとつ町のプペル』の作り方と届け方」など、読みどころある誌面構成となっていた。

さて、そのなかでも「面白い」と話題になったのが、野沢直子による、’15年に亡くなった父に関する手記『笑うお葬式』。それが先日、加筆されたうえで単行本として出版されたのだ。

まずは以下からこの手記の冒頭部分を読んで欲しい。

http://bunshun.jp/articles/-/1829

こんな父親の人生はまさに破天荒。何度も事業の失敗を繰り返したのち、競馬予想業が大当たりする。ビルと豪邸を持ち、さらに馬主としても成功する。しかし、結局、事業は破綻、アルコールにも蝕まれる。借金を抱えて失踪したり、愛人を作ったりと、とても「いい父親」ではない。野沢は「家庭を顧みない人」と父を冷めた目で見つつも、やがて、だんだんと弱っていく父との関わりのなか愛情を深めていく。

その父も、家族を捨てて疾走したりする割に、子どもたちへの愛情は深い。その愛の深さを通奏低音に、お笑い芸人として成功の道を進む野沢の人生とハチャメチャな父親の人生を、父を信じ続けるどこまでも優しい母、そして女でひとつで野沢の父や弟で声優の野沢那智を育てあげた、江戸っ子の祖母らとの関わりとともに描いていくのだ。

好感が持てるのは、徹底して自分の感情に正直に書いているところだ。紹介されるエピソードには、随所に芸人らしいオチがあって楽しく読ませるが、それらを笑いながら読み進むうちに、野沢の持つ、言葉で簡単には表現できないような、家族への「真情」が見えてきてぐっと来てしまうのだ。

途中、中だるみもするが、後半一気に持ち直す。特に単行本化の際に加筆された、野沢と長女で総合格闘家の娘の真珠・野沢オークライヤーとの関係を綴った部分がいい。まったく言うことを聞かない娘への、母としての想いを綴るのだが、「父と娘」の話に「娘である母とその娘」の話が加わって視点の転換が起こり、話にふくらみが生まれるのだ。

やがて訪れる父の死。もちろん読んでいるこちらが思わず目頭が熱くなるような場面もあるのだが、野沢は決してこの手記をただの感動話では終わらせるつもりはない。
最終ページ、読者は、5行にも及ぶ長々とした最後の一文に、「絶対にオチをつけるぞ」という野沢の芸人魂を見ることになる。

『笑うお葬式』(文藝春秋/1250円)