第12回 プチリフォームのススメ ~梁のはなし~

昨年、フランスから母が遊びに来て、秩父を旅行しました。

母はもう何回も来日したことがあるので、京都や鎌倉、浅草など一通りの観光地は経験済み。ひねくれ者のフランス人(というか私の家族?)らしく商業化された場所より地元の人しか知らないような、ちょっと変わった場所を好みます。

近場の旅館をネット検索していると、黒光りする立派な梁が組まれた高い天井に一目惚れ!

梁大好きな私の一存で、行き先は秩父の新木鉱泉に決定しました。

宿に着くと、期待を裏切らない本物の古さに圧倒されます。廊下を歩く度にギシギシと音を立てるし、大きな声を出すとお隣に聞こえちゃう。暖房もなかなか効きにくいのでちょっと寒いです。

でも廊下や梁はピカピカに磨きあげられているし、至る所に野の花が生けてありぬくもりを感じます。常連さんが多いようで大声で話している人やドタドタ歩いている人もいません。

働いている人もお客さんも、この宿をいたわって大切にしている感じがします。
母はフランス語しか喋れないので仲居さんにガンガン日本語で話しかけられてちょっとびっくりしていましたが、最後には何故かおばちゃん同士、フランス語と日本語で会話が成り立っているように見えました(笑)

外国人が旅館に求めていることは、日本人と同じように浴衣を着て、温泉に入り、箸でご飯を食べるという体験です。

「英語が通じる」ことは実はあまり重要ではなくて、ジェスチャーでも積極的にコミュニケーションをとろうとしてくれる方がずっとうれしいのです。

大きなホテルではできない、その土地の人とのふれあいをとても大切にしています。

東京オリンピックに向けてインバウンド強化中の日本ですが、私は外国人向けにアレンジしたサービスより、日本人の昔ながらの気遣いや優しさが最高のおもてなしだと思っています。

新木鉱泉さんは日本人がナビでも辿り着けないような分かりにくい場所にあります。しかも、有名な観光スポットから離れているにも関わらず外国人のお客さんが少なくないそうです。

特にアメリカ、ヨーロッパから来るバックパッカーのお客さんが多いんだとか。

宿のHPは日本語版のみ、スタッフも英語を一切喋れないのですが、彼らは地図を片手に自力で宿にやって来て、建物の古さを絶賛し、とても満足した様子で帰っていくそうです。

仲居さんも、遠い異国からやって来た彼らがどうやってこの宿を知ったのか全く分からないと言います。

私は、彼らもHPの梁の写真に魅了されて直感でこの宿を選んだのではないかと思います。その直感は大当たり!この旅館を訪れた外国人は本当にラッキーです。

帰り際に建物の素晴らしさを宿の方に伝えると、こんな話をしてくれました。

「昔は古い建物が恥ずかしくて、建て替えを考えたこともあるけれど、今ではこの建物の価値を分かってくれる人が増えた。特に外国人。建て替えずにやってやってきて良かったです。」

古い建物を保存していくのは大変な苦労があるだろうけれど、時を経たことで出た味わいは宝物です。

私が住む三浦市でも近所の古民家が取り壊されることが珍しくありません。
散歩中、偶然通りかかった解体現場に無傷で置かれた梁を発見しました。

ダメ元でゆずってほしいと頼んでみると

「どうせ捨てるものだから、すぐに持って帰れるならタダで持っていっていいよ」

と言われ、このチャンスを逃してたまるかと汗だくになって家まで歩きで3往復してちゃっかり3本もゲットしました。

解体業者の方に後でお礼にクッキーを持っていくと、

「あんな廃材のために3往復もするなんてどうかしている」

と呆れられてしまいました。
いただいた梁は我が家のいたるところで新しいパーツとなって生まれ変わっています。

レンガ積みのBBQや角材で作られた棚は直線的でつまらないので部分的に梁を使って曲線を出したり、玄関のポイントなっています。

廃材と言ってしまえばそれまでですが、梁に開いた穴や出っ張りが私には長年家を支えてきた勲章ように輝いて見えます。

DIYで材料を買ってきて一から新しいものを作るのは楽しいですが、BBQのように古いものと新しいものをコラボさせて自分だけのオリジナルを作ることも好きです。

Loto6に当たったら、築100年位の立派な梁で建てられた古民家を買って、毎日改装して過ごしたいです。

その時に備えて、今度は何処の梁自慢の宿を旅してみようかな。