第95回 日常生活の冒険

今年もあと2ヶ月となりました。
振り返ってみると個人的には平凡な一年でした、と書こうとしましたが、
いやいや、けっしてそんなことはないのです。
平凡な毎日の中にもドラマチックな瞬間もあるし、思わぬ危険も潜んでいるのです。

10月21日、総選挙の前日のこと。
日本列島を台風21号が襲来しておりましたが、とあるイベントに参加するために小樽ビールのお店「ライブシュパイゼ」に向かいました。
そのイベントとは「20分おきにアインプロジットを歌う会」。
つまり、20分おきにアインプロジットを歌うというイベントなのです。(なんの説明にもなってないですね)
「アインプロジット」はドイツの乾杯の歌です。
歌詞は「乾杯しよう♪乾杯しよう♪~ホニャラララ~♪1、2、3、かんぱーい!!」みたいなノリのいい明るい歌です。
(かつてビールのテレビCMでも使われていたことがあります)
本場オクトーバーフェスト(ドイツ・ミュンヘンのお祭り)では15分おきに歌われて、乾杯を繰り返すとの話ですが、実際に観たわけではないので、定かではありません。

さて12時に「ライブシュパイゼ」に到着すると、もはや歌声が聞こえます。(12時はもちろん正午、お昼の12時です)
なんとすでに10人あまりの老若男女がマースグラス(1リットルのジョッキ)を片手に歌っています。
そして「プロースト!!」(乾杯!!)という掛け声とともにジョッキを合わせた後、美味しそうに飲み干しています。

出遅れたか・・・。(こういう焦りは禁物です。3時間飲み放題なのですから、慌てることはないのです。←ということは、今だから言えるのですが)

遅れを取り戻すために、まずはフェストビールからです。
このビールは、ドイツのオクトーバーフェストの時期に合わせて小樽ビールが醸造する「季節のビール」で、製法はビール純粋令に基づき本場ドイツと全く変わりません。その味も本場ドイツと同じか、それ以上です。(って、本場のは飲んだことはありませんが)
ソーセージとプレッツェルを注文すると、臨戦態勢に入ります。

 

 

そして、チリン♪チリン♪とお店の隅のベルがなります。
みんなジョッキを片手に立ち上がると、おもむろに歌い出します。

アインプロージット♪アインプロージット♪
デアゲミューリッヒホニャラララ~♪
アインプロージット♪アインプロージット♪
ホニャラ~ララ~ララ~♪
アイン!ツヴァイ!ドライ!
プロースト!!!!

その日初めて会った人たちですが、もはや旧知の友のようにジョッキを交わして乾杯です。
ビールとこの歌があれば、世界中の人と仲良くなれそうです。
これが世界平和に繋がる最短の道のような気がします(酔っ払いの戯れ言です)。

フェストビールの次はシュバルツです。これも小樽ビール季節限定の黒ビールです。
黒い味がします。←小学生の感想か!?(って、未成年は飲めませんので、酔っ払いの戯れ言です)
生ハムとなんとかチーズ(名前を失念)を食べながら飲むシュバルツは最高です。
ピザとシュニッツェル(ドイツのトンカツ。薄いハムカツみたいなヤツです)を頼んで、ドンケルビールも追加します。

チリン♪チリン♪とお店の隅のベルがなります。
みんなジョッキを片手に立ち上がると、おもむろに歌い出します。
アインプロージット♪アインプロージット♪
デアゲミューリッヒホニャラララ~♪
アインプロージット♪アインプロージット♪
ホニャラ~ララ~ララ~♪
アイン!ツヴァイ!ドライ!
プロースト!!!!

「飲めや歌えや」というお祭り騒ぎを形容する言葉がありますが、このイベントは、飲むと歌うが独立しています。
「飲めや」はごく普通の飲み放題で、ただひたすら規則正しく飲みます。
「歌えや」は20分ごとに規律正しく全員で起立して大きな声で明るく歌います。しかも後半になるとハモる人まで現れて、ウィーン少年合唱団のような酔いどれ天使の歌声が店内に響き渡ります。
「飲めや」と「歌えや」にしっかりと「けじめ」がついているのです。

しかし、5回ほどチリン♪チリン♪のベルを聞いた辺りから、「けじめ」が、いや「記憶」が無くなってきました。

お店の外で台風21号の風が強くなったようです。
誰かが唐突に「風の歌を聴け」と言うと、「いや、オレの歌を聴け」という声が聞こえ、
皿からこぼれそうになったオイルサーディンをフォークで押さえながら「イワシを離さないで」という叫び声が響く。
秋の「日の名残り」に浸りたいのに、「昨日の残り」のオカズ・ノドグロはイワシより高級だとクドクド話す人がいる。
ノーベル文学賞の話かと思いきや、明日は投票箱の代わりにパンドラの筺に投票することになったと意味深な話をする人がいる。
続きを聞いていると、パンドラの筺を開けて投票用紙を全部出したあと、筺の底には希望もなかったと言うので、その場からみんなに排除されそうになったけれど、タイミング良くチリン♪チリン♪と救いのベルがなる。

そして、何度目かのアインプロジットを歌った後、本当に記憶がなくなり・・・

翌朝、自宅のベッドで目を覚ました。
久しぶりに帰巣本能が役に立ったけれど、すっかり何も覚えていない。
支払はどうしたのか?どうやって帰ってきたのか?何かインシデントはなかったのか?
楽しかった反面、記憶がないことの不安感がこみ上げてくる。

誰にでもある平凡な毎日に潜むドラマと危険を味わい尽くしたのでした。(ま、誰にでも起こることではないかも)

 

注1.小樽ビール「ライブシュパイゼ」は札幌に実在するビールの美味しいお店です。

注2.「20分おきにアインプロジットを歌う会」は毎月第3土曜日12:20~15:20開催中です。

注3.本稿は私がイベントに参加をしたときの記憶をもとに書きましたが、事実と違うこともあるかもしれません。というか、ほぼすべて個人の感想ならびに妄想です。

注4.10月30日の台風22号の強風で自宅の物置の屋根が隣家の庭に飛んでいったことは事実ですが、秘密です。