第141回 電子書籍をめぐる冒険
電子書籍は便利です。
自宅に居ながらにして欲しいと思った本を、瞬時にインターネット経由で購入できるのですから。
そして購入した本は専用端末だけじゃなく、スマホやタブレットでも読むことができます。
読書灯なしの暗闇で本を読むことも可能です。
わからない言葉の意味を内蔵の辞書で確認できたりもします。
さらに絶版となってしまった本を見つけたり、紙の本ならば収納に困るであろう全集などを簡単に手許に置くことだってできます。
でも、どんなに便利でも「本はやっぱり紙じゃなきゃ」って人もいると思います。
実は、私もどちらかというと紙派です(えっ?!)。
手で触れる感触。重さや厚みを感じながら、ページをめくる。
ああ、もう半分も読んだんだな、なんて考えながら、やがて読み終えた時に訪れる満足感と充実感・・・。
(つまらない本を読んだときには床に投げつけることもできます。やったことはないですけど)
ただ、紙の本好きの人には本を処分できないという弱点があります。
本はどこまでも増え続け、溜まり続けます。
これが紙派の唯一の弱点と言えましょう。
本の置き場所が生活空間を侵食してしまったとき(※1)、断腸の思いで自炊(※2)を検討し始めます。
※1.食卓に本が溢れて食器の置き場がなくなったり、床に布団を敷くスペースがなくなったり、浴槽いっぱいに本が鎮座しているような状況
※2.自炊とは、ようやく手に入れた備蓄米を炊飯器で炊き上げる、というのではなく、自分の本を(泣きながら)裁断して、1ページづつスキャナーで読み込んで、電子書籍を自作すること
自炊は手間のわりには実りが少ない作業です。
裁断のときにページの大きさが揃わなかったり、ページを斜めに取り込んでしまったり、上の空で作業をしていると2,3ページ抜けてしまったり。。。
フィジカルもメンタルもヤられてしまいます。
そうなると俄然、電子書籍の優位性が際立ってくるのですが、手放しで褒められない面もあります。
つい先日(6月24日)のこと、6月にしては暑いなと思いながら締め切った部屋で本の整理をしていたら、なんだかダルくなりました。
気象情報によると最高気温が平年より10℃ほど高い真夏日だったとのことで、軽い熱中症かもと思い、早々に夕食を済ませて床につきました。
翌日は、なにごともなく爽やかに目覚めました。
朝のルーティンを済ませて、メールチェックを始めたところで、「口座引き落としのご案内」というメールに気づきました。
受信時間は深夜1時13分。
メールを開くと、「電子書籍購入代金 2,750円お引き落とし」の案内でした。
「えっ?????」頭の中に溢れるハテナマーク。
きのうは22時には夢の中でした。
メールの受信時間に電子書籍を買えるわけがありません。
何かの間違いだろうと、電子書籍アプリを開いてみました。
なんと!
見たことのない本がライブラリに登録されています。
自分が絶対買わない種類の本です(書名はヒミツw)。
どう考えても不思議です。
私が求めていない本が寝ている間に購入されて、代金決済までされている。
これは電子書籍のアカウントが乗っ取られたに違いありません。
まず、私は電子書籍購入をキャンセルするために、サポートセンターの情報を探しました。
一般的にこの手のサポートセンターへのアクセスはわかりにくいです。
ご多分に漏れず、このサポートセンターもわかりにくかった。
なんやかんやあって、サポートセンターと電話がつながりました。
相手は若い(たぶん)男性です。
「身に覚えのない電子書籍が購入されて、代金も引き落とされているのだ」と冷静に彼に訴えました(客観的に見るとヒステリックな物言いかもしれませんが)。
サポートセンターの彼は冷静に(客観的にも冷静に)
「確認しますので、少々お待ちください」と言って保留のオルゴールに変わった。
スマートフォンの向こうで なんか聞いたことがあるけど名前が思い出せないオルゴールの曲が流れている。
曲の名前を調べたいが、スマホの鼻歌検索を使うと電話が切れてしまいそうだ。
これはこの場で覚えるしかない。
オルゴール曲を覚えるために私は鼻歌を歌い出した。
「ふふふー♪ふんふんふーん♪ふっふっふん?ふ・・・」
「お待たせいたしました。(うふ)」とオルゴールが遮られた。
サポートセンターの彼の含み笑いが聞こえたような気がするが、
「はい」と返事をする。
「お問い合わせいただいた電子書籍は、昨日の1時13分に確かにお客様がご利用の端末で購入されています。もし、購入のキャンセルをご希望でしたら、
こちらでキャンセルと返金の手続きができますが、いかがいたしましょう?」
(え?私の端末で購入されてるってなぜだ?やっぱり何者かにアカウントを乗っ取られたのか?でも、乗っ取ったヤツはどうやってその電子書籍を読むんだ?・・・)
みたいな思考が頭の中に流れていく。
とはいえ、返事をしなきゃ。
「はい、キャンセルお願いします」
「承知いたしました・・・・はい、キャンセルいたしました。申し訳ありませんが、購入代金の返金には2,3日お時間がかかりますので、ご容赦願います」
「はい、大丈夫です。ところで、アカウントが乗っ取られたと思われるのですが、どうすれば・・・」
「・・・お客様の端末からのリクエストなので・・・(なんか困惑気味)・・・一般的にパスワードの変更と二要素認証をご利用いただくのがベターかと・・・」
(あくまでも責任は利用者にあるというのだな。約款か利用規則みたいなものに免責事項として書いてあるに違いない。われわれ小市民は大企業の法務部が仕掛けた細かい目の網から逃れることはできないのだな・・・)
「わかりました。パスワードを変更します。ありがとうございました」
けっして納得も感謝もしていないのに、小市民はこう言ってから電話を切った。
パスワードを変更しなきゃ。
今までは大小英文字と数字の8文字で構成されたパスワードだったが、今度は倍の16文字にしよう(高見山も「2倍!、2倍!」って言ってたし。古っ)。
どんなパスワードにしようかって真剣に考えているとき、サポートセンターの担当者の言葉がなんか引っかかってきた。
彼はこう言っていた。
「「電子書籍は、昨日の1時13分に確かにお客様がご利用の端末で購入されています。」」
私は昨日22時には夢の中だったから、夜中の1時13分に電子書籍を買えるわけがないと思っていたけど、寝ていたのは「今日の1時13分」であって、「昨日の1時13分」のことではない。
改めて代金引き落としのメールを見ると日時は「6月24日1時13分」だった。。。昨日だ。。。
6月23日は夕方から知り合いと居酒屋で呑んでいた。
すっかり酔って深夜12時過ぎには帰宅したはずで、翌朝目覚めるとソファーの上で着衣のままタブレットを握りしめていたのだった。ああ、アカウントを乗っ取った犯人は、お酒に意識を乗っ取られた自分の可能性が高い・・・。
電子書籍は便利です。
いつでも(夜中でも)どんな状況でも(泥酔状態でも)購入できるから(なんのこっちゃ)。