『こころは遺伝する: DNAはいかに〈わたし〉を形づくるか』

100ポンド払うだけで、生まれた瞬間から、その子がうつになるか、学校でどれぐらいの成績を取るかを言い当てる――そう言われたら怪しさしか感じないかもしれないが、『こころは遺伝する: DNAはいかに〈わたし〉を形づくるか』によれば、最新のゲノム科学によって、それが現実になりつつあるという。

著者のプロミンいわく、性格も、知能も、心の病へのなりやすさも、人と人との違いの多くはDNAが決めている。家庭も学校などの環境をふくめた他のすべての要因を足し合わせたよりもDNAの影響を大きいという。心理学の研究では、ひとつの要因で説明できる個人差が5%を超えることはめったにない。そんな世界で、遺伝は個人差のおよそ50%を説明する。プロミンはこれを「スケールの外れた」大きさだと言う。逆に、遺伝の影響を差し引くと、家庭や学校という「いかにも効いていそうな環境」が説明できる差は5%にも満たない。ちなみに学業成績の遺伝率は約60%なのに、一般の人に尋ねると平均29%としか見積もらないという。私たちは遺伝の力を、無意識にずいぶん低く見積もっている。

生後すぐに別々の家庭へ引き取られた一卵性双生児、すなわち遺伝は100%同じ、環境はまるで別、という子どもたちの人生を追うと、驚くほど似通った人生を歩むことがわかる。これが遺伝の影響だ。そのうえ、親の育て方、友人グループ、受けられる社会的支援、さらには子どもがテレビを見る時間の長さなど、これまで環境要因として整理されていたことにも、遺伝の影響で説明できてしまうという。人は自分の遺伝的傾向に合った環境を、自ら選び取ってしまうのだ。環境の効果に見えたものの半分は、実は遺伝の反映である。

遺伝がすべてを決めるーこの主張にある種の不穏さを感じる人もいるだろう。未来はすべて遺伝で決まっている。ならば人生の勝者も敗者も最初から決まっているのではないか、しかし、遺伝率が高いことは「人生を変えられない」を意味しない。実のところ、遺伝は、「予測できることを予測できる」だけにすぎず、未来そのものを予測できないことは、数学的にも明らかだ。DNAの影響が大きかろうと、結局、人生の方向を決めるのは偶然と微少な誤差だ。

いずれにしろ、われわれは、われわれのこども、そしてわれわれ自身をコントロールできない、ということになる。であるからこそ、われわれは、今この瞬間、ただひたすら自分らしく生き、様々な偶然が決めていく人生を歩んでいくほかないのである。

『こころは遺伝する: DNAはいかに〈わたし〉を形づくるか』ロバート・プロミン著