Donald Fagen 「Walk Between Raindrops」(Fagen) 82Warner Bros
スティーリーダンは圧倒的な完成度のアルバムを連打した後、第一期を終え、ドナルドフェイゲンの1stソロ『The Nightfly』が出ます。
50年代から常に黒人音楽のエッセンスを昇華しながら進化した、ロックの完成形がスティーリーダンだったわけですが、そんな最先端に突き進んだフェイゲンは自らの青春時代である50年代にフィードバックします。
一聴、軽いです。よどみなく洗練された音が紡がれ、鳴って、流れる。イージーに聞き流せる、R&BテイストのAOR。ところが、真剣に聴きこむとその密度は恐ろしく濃い。演奏の一音一音の研ぎ澄まされ具合はスティーリーダン以上とも言えます。
濃いんだけど、その音が自己主張せず、軽い。パーソナルな風合を持つソロなだけに、あくまで主役はフェイゲンのヴォーカルであり、物凄いクオリティの演奏はあくまでバッキングに徹する。とてつもなく贅沢な音楽です。
「Walk Between Raindrops」はアルバムラスト。仲直りしたカップルが、突然振り出した雨をかいくぐって走る。富と名声とキャリアを手にした男の余裕シャクシャクな振る舞いが羨ましい限りです。