第9回 「必冊!仕掛本」

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天気がすっきりしないし、選挙も近そうだし、景気も悪い。。。なんだか閉塞感に押しつぶされそうです。

こんな時、ついバブルの頃を懐かしんでしまいます。(今日の沈滞の遠因でもあるバブルは諸悪の根源とも言われているのですが・・・)
ピークは1988年から1990年あたりでしょうか、誰もが浮き足だって、やりたいことは何でもできそうな、ヘンな熱気がありました。

そんなバブルの雰囲気を身近なことを記録しながらも巧みに表現している本がありました。

「東京風船日記」(中野翠著 新潮文庫 絶版)です。
1988年5月くらい(最初は日付がない)から1992年4月までの日記で、その時の風俗や映画や芸能のことなどを時代の空気とともに活字に封じ込めていて、読む人をバブルの中に引き戻します(私だけかもしれませんが)。

そして、この本が秀逸なのは、文庫見開きの左端すべてのページに、縦長目盛りと赤い風船が描かれているのです。その目盛りは東証一部平均株価を表す金額(2万円~4万円の間に目盛り)で、赤い風船はその日の平均株価のあたりにフワフワ浮かんでいます。

文庫本をパラパラめくると、あーら不思議、赤い風船がぐんぐん上に上がって、ある日(1989年12月末)を境に落下していくというアニメ-ションを見ることができるのです。

なんて素敵な仕掛けでしょう!(そして、なんて滑稽なんでしょう!想像もつかない巨額なお金は目盛りで測るしかないのですね)

もし赤い風船が天に向かってフワフワ上昇しつづけていたら、つまりバブル崩壊がなければ、今頃どうなっていたのかな、と考えないでもありません。

まさに、映画「バブルへGO!」の世界になっていたのでしょうか?(映画の中で、タイムスリップするときの広末涼子のスクール水着がよかったですね ・・・あのシカのスク水とは大違いです<<しつこいですね)

そういえば、故マイケル・ジャクソンの友達のチンパンジーの名はバブルス君でした。しかもいっしょに来日したのはバブル期の1987年でした・・・何かの象徴だったのですね・・・しみじみしてしまいます。

と、いつまでも感慨深げにバブルに浸っていると、良識ある人々にお叱りを受けそうです(といっても、良識ある人は、たぶんこの文章に目を通さないでしょう・・・おっと、今読まれている皆様は「清濁併せ呑む器の大きな人」ということです、って、いったい誰に言い訳してるのでしょう?)

「東京風船日記」に触発されて、仕掛のある本をいくつか思い出しました。

仕掛のある本といっても、本を開くと折りたたまれた動物や建物が立体的に飛び出してくる機械的な仕掛本ではありません。

たとえば、上下2巻の本の表紙を並べると一つの絵になるような装丁を凝らしたような本のことです。
全巻立てて並べると背表紙が絵になる本もありますね。
「帝都物語(全10巻)」(荒俣宏著 角川文庫 初期版)
「日本探偵小説全集(全12巻)」(創元文庫)とか、いくらでもありそうです。

ハードカバー本の表紙カバーを外すと中の装丁が違っているというのも時々ありますね。
スティーブン・キングの「ミザリー」(文藝春秋社)のカバーは有名です。
(本体の装丁がどうなっているかは、少々ネタばれになるので、ここでは書きません。興味のある方は古書店などで捜してみてください)

世界初の事典小説「ハザール事典」(ミロラド・パビッチ著 東京創元社)にも仕掛があります。

この本は<男性版>と<女性版>の2種類があるのです。
しかもその違いは本文中の17行のみ。はたしてどこが違うのか?
残念ながら手元には<男性版>しかありません。
しかも積ん読本だったので読んでません(それじゃ、だめじゃん)。
<女性版>も併せて買っておくべきでした・・・。

もう一つ、2冊買っておくべきだったと後悔している本があります。

「生者と死者」(泡坂妻夫著 新潮文庫 絶版)
この本の仕掛は実物を見ると普通にわかるので、種明かしをしてしまいますが、本編が数ページ単位で「袋とじ」になっているのです。(「袋とじ」と聞いただけで興奮してしまう方には申し訳ありません、内容は健全です)
袋とじ状態のまま読み進むと数十ページの短編小説になっています。

その後、袋とじ部分をペーパーナイフで切り開くと、今度は200ページ程度のまったく別な長編小説が現れるのです。
最初に読んだ短編小説は長編の中に消えてしまうという奇術のような仕掛です・・・

奇術といえば、著者の泡坂妻夫氏は、奇術界でも有名な人だったはずです。

そのせいか、書く本にはいろいろな趣向が凝らされてました。

著者自身、ペンネームの泡坂妻夫(あわさかつまお)は本名のアナグラムです。
本名は、松尾和子(まつおかずこ)といいます(って、明らかにウソですね。本名は厚川昌男(あつかわまさお)さんというんですね)。

著者の書く短編小説シリーズの主人公に、亜愛一郎(あ あいいちろう)という探偵がいます。
苗字が「亜」です。

ヘンな名前ですが、どうやら名探偵人名辞典に掲載されるときに五十音順でもABC順でも最初に表記されるように名付けたとの噂があります。(たぶんそうなのでしょう)

ほかにも、回文が随所に出てくる「喜劇悲奇劇」(「きげきひきげき」、もちろん題名も回文です。絶版のようです)や同じ場面が繰り返されて製本ミスかと思わせるような(って、勝手に思っただけですが)「湖底のまつり」(創元文庫)など枚挙にいとまがありません。

その多くの著作の中でも一番の仕掛本は、「しあわせの書」(新潮文庫)でしょう。(一番というのは私の主観ですけど)

迷探偵ヨギ・ガンジーシリーズの一冊ですが、この本の仕掛は凄いです。
どう凄いのか、それは、さすがにちゃらんぽらんな私でも書けません。
ネタばらしになるうえ、営業妨害で訴えられてしまいます。
興味のある方は自分の目でお確かめください。

・・・さんざん引っ張ってきて、最後は尻すぼみという最近の大作映画のようになってしまいました。

その汚名返上のためというわけではありませんが、最後におまけです。

<クイズ>
下記の著作の題名の中に「仕掛」があるのはどれでしょう?

1.「方丈記」鴨長明著
2.「こころ」夏目漱石著
3.「エデンの東」スタインベック著
4.「日はまた昇る」ヘミングウェイ著
5.「カラマーゾフの兄弟」ドストエフスキー著

教訓「澱みに浮かぶ泡沫は・・・次々生まれては消えていくのですね・・・」(なんだか、余計に尻すぼみになってしまいました・・・「バブル」も・・・おっ!まさか、あわ?)