『捕まえて、食べる』は、その題名通り、生き物を採集して食べた記録を記した本だ。こう書くと別に面白くもなさそうだが、本の帯には、作家・椎名誠さんの「読んだらすぐに自分でもやりたくなった」、ノンフィクション作家・高野秀行さんの「爆発する『夏休み感』にやられた!」、発酵学者・小泉武夫さんの「狩猟本能×料理奔放×賞味悦楽=この本、である」という推薦文がある。

野外食や珍しい食べ物の大家ともいえるこのお三方の推薦とあらば、もうこれはもう買うしかない。

テーマは地味で、読者がすぐ試せそうなものの多い。例えば東京湾の干潟で砂に空いた穴に塩を入れてマテ貝を獲る。このやり方を知っている人は多いだろう。同じく東京湾の干潟の穴に書道用の筆を刺す。するとアナジャコという甲殻類が筆を押し上げてくる。そこをすかさず捕まえるのだ。アナジャコは寿司ネタになるシャコと見た目は似ているが、むしろヤドカリに近い生き物だが、唐揚げにするとなかなかうまいらしい。

続いて著者は、相模湾で江戸前の高級天ぷらネタとして知られるギンポを釣る。釣るといっても、家にあった針金ハンガーに糸と針と重りをつけ、スーパーで買ったトロを餌に、浅瀬の岩の間に落とし込むだけだ。

他にも埼玉ですっぽんを捕まえたり、多摩川の河畔で野草を採って食べたりする。また、日本海に浮かぶ粟島でタコ取り大会に参加したり、海辺に押し寄せてくるホタルイカを網で掬うべく、富山県に行ったりと遠征もしている。

ただ捕まえるだけなのに、とにかく読んでいて楽しい。なぜだろう、と考えてみると、その原因は著者の「行き当たりばったり感」と「素人感」だった。

著者は何かが採れると聞くと、ろくに調べずに出かける。行った先で達人に会って教えてもらうことあれば、場所がわからず右往左往したり、必要な道具を忘れて困ったりしながら、苦労して獲物に出会ったりもする。

多くの人がそうだろうが、最近私が出かけるときは事前にネットで調べまくり、すべて知ったうえで現地に行き、予定調和のような楽しさを味わうだけのことも多い。だから、このろくに調べもしないで出かける著者の態度がやけに新鮮で、なおかつ楽しそうに見えるのだ。

そして著者は、最初から最後まで素人の視線で語る。何度も捕まえていればテクニックも上達し、つい「上から目線」で語り出しそうだが、彼は徹頭徹尾初心者のまま。いつでも失敗したり困ったりするし、些細な事でも、いちいち面白がったり感動したりする。

高野秀行が言う「爆発する『夏休み感』」とはこういうことなんだろう。著者は、後先考えず、行き当たりばったりの小学生男子のように楽しむのだ。

だからこそ、本書を読むと、とにかく今すぐやってみたい、と思ってしまう。と言うか、私は息子と一緒に実際にマテ貝やアナジャコを狙って大潮の干潮時に、多摩川河口、羽田付近まで行ってしまった。残念ながらすでにシーズンは去っていたようで何も捕まえられなかった。息子が牡蠣を見つけて割って中身を取り出してみたのだが、あまりのドブ臭さに捨てざるを得なかった。
「捕まえて、食べる」ことはできなかったが、またリベンジするつもりである。

 

『捕まえて、食べる』新潮社/1300円