第98回 「売れる」「売れない」「面白い」「面白くない」、ビジネス週刊誌「4象限マトリクス」の迷宮

どんな雑誌でも、看板になるのは「特集記事」である。そして、どんな特集記事も「4象限のマトリクス」に分類できる。

「売れる」「売れない」「面白い」「面白くない」という要素を組み合わせると、「売れる&面白い」「売れる&面白くない」「売れない&面白い」「売れない&面白くない」という4象限のマトリクスができる。

いちばんいいのが「売れる&面白い」、悪いのは「売れない&面白くない」というのは、言うまでもありませんね。

では、2番目にいいのは、どれでしょうか? 「売れる&面白くない」か「売れない&面白い」か。

一般週刊誌の場合は、「売れる&面白くない」という号は、まずない。面白ければ売れるし、面白くなければ売れないのである。

ところが、ビジネス週刊誌については、「売れる&面白くない」と「売れない&面白い」という号がほぼ半分ずつくらいはある。

感覚的には、「売れる&面白い」が1割、「売れない&面白くない」が同じく1割、残り8割を「売れる&面白くない」と「売れない&面白い」で分け合っている印象だ。

なぜ、こういう結果になるのか。

特集担当者(副編集長)によって、「間口」の広げ方が異なるためだ。間口を広く取る、すなわち読者層が広い特集は、売れる可能性も高い。狭く取れば、その逆となる。

しかし、読者層が広いということは、すなわち「面白くない」と感じる読者もまた多いということである。ま、特集の出来不出来もあるんでしょうけど。

4象限のマトリクスで特集記事が分類できるように、特集担当者もはっきりと色分けできる。

筆者は、「売れない&面白い」特集担当者の筆頭格だった。なんだかんだで、雑誌の評価は売れ行きに左右されるので、したがって肩身も狭かった。狭いわりにでかい口をたたくので、社内では顰蹙を買っていた(苦笑)

古巣の週刊誌編集部では、毎号必ず特集記事・個別記事単位で「読者満足度」を調査していたので、「面白い」「面白くない」の評価はかなり精密に把握できる。

毎年50本の特集記事が出るのだが、その年度の「読者満足度」上位5本を並べてみると、手前味噌で恐縮だが筆者が担当した特集は少ない年で3本、5本独占という年もあった。

「売れない&面白い」特集は、その時々一度限りのアイデア勝負である。しかし、「売れる&面白くない」特集は、同じ中身をあれやこれやいじくっては何度でも繰り返す。

商売である以上、それが悪いとは言えないのだけれど、常に新しい情報、新しい価値観、新しいニュースを求めている読者に対して、失礼なことではないか。と、ずっと思っていたし、今でもその考えは変わらない(もう、雑誌作ってないけど)

そうは言っても、「売れない」という烙印を押されるのは、やはり悔しい。社内評価だから気にしなくてもいいのだけれど、やはり悔しい。

そこで、年に1~2度、すっぱりと割り切って売れ行きだけを狙った特集記事を企画していた。

今でも思い出すのは、「ホテル&エアライン」特集だ。

知り合いのホテルライター(女性)に依頼して、「恋人も濡れるホテルランキング」という記事を書いてもらった。「私が書くと、すごく下品になるけど、本当にいいんですか?」(老舗ビジネス週刊誌なのにいいんですか、というニュアンスが含まれている)と念を押されたので、「遠慮なくやらかしちゃってください」と背中を押した。

ANAとJALに交渉して、「社内で一番きれいな客室乗務員」も紹介してもらった。どーんと全身写真を掲載して、「ANA・JAL美女対決」みたいな記事に仕立てた。

その他、あれやこれや。「下品」がてんこ盛り。

むちゃくちゃ売れた。

売れたら、入社同期の営業部員が怒鳴り込んできた。「少しは品格を考えろ。老舗ビジネス週刊誌のブランドを壊す気か!」というのだ。

何を言いやがる。口を開けば、「いい特集でも売れなければ意味がない」とかほざいていたくせに。と馬耳東風を決め込んだ。

半年ほどして、「またホテル&エアライン、やってくれないかなって営業部からお願いされてるんだけど」と編集長に言われた。

営業部だって?、どの口が言うんだよ(笑)。

まっぴらごめんです。と断わったら、「じゃあ、僕がやってもいいかな?」と手を挙げた副編集長がいた。

まったく、売れなかった。読者満足度も最低に近い結果だった。売れたからと言って、二度も三度も同じことをやるようでは、読者からソッポをむかれる。

読者からソッポをむかれれば、50年、100年と続く雑誌は作れない。毎週毎週、1号1号の売れ行きに一喜一憂するのでなく、常に新しい情報、新しい価値観、新しいニュースを提供することに重きを置くべきなのだ。

出版不況で雑誌が売れなくなって久しい。出版業界の方々は決まって「活字離れ」と言うけれど、はっきり言って「面白くない」から売れないのではないか。筆者自身、毎号読みたいと思う雑誌が今はない。

以下は、蛇足である。

エアライン&ホテル特集を断わったら、「売れる特集、なんかないかな?」と編集長が言うものだから、「釣りかペットはどうですかね」と言ってやった。

ビジネス週刊誌が「釣り」とか「ペット」を特集しても、どうしようもないことくらいは分かるだろう。と思ったので、もちろんこれは皮肉である。

すると瓢箪から駒が出て、ペット特集をやることになったから、言ったこっちがズッコケた(担当してくれと言われたが、お断わりした。あたり前田のクラッカーだ)。

結果は、これまた見事に売れなかった。「売れない&面白くない」の最悪の結果である。ビジネス週刊誌の存在意義を考えれば、やっちゃいけない特集なのである。

さすがに、「釣り」はやったことがない(と思う。辞めた後のことは知らないので)。やってみりゃいいのにね。

売れれば何度でもやっただろう。やった結果が、読者に見放されただろう。と、そう思う。ま、やってもやらなくても、売れ行きは急降下している。それが、読者からのしっぺ返しだということを作り手は理解していない。

こんなことを書いておいて、最後にこんなことを言うのもどうかと思うが、どうにも「面白くない」話ですねぇ、今回は(苦笑)。でも、書かずにはいられなかった。

面白くなければ、(このコラムの)読者のみなさまにもソッポをむかれてしまう。心しなければならないという思いを新たにする晩秋である。