『HIDDEN POTENTIAL 可能性の科学――あなたの限界は、まだ先にある』
『HIDDEN POTENTIAL 可能性の科学』は「見えない伸びしろ」をどう見つけ、どう育てるかを、最新の知見と具体的なエピソードとで立体的に示してくれる一冊だ。著者はペンシルベニア大学ウォートン校教授で組織心理学者のアダム・グラント。『GIVE & TAKE』『ORIGINALS』『THINK AGAIN』などのベストセラーを生み出してきた彼の待望の最新作である。
本書が暴くのは「才能がすべて」という誤解である。遺伝的才能や恵まれた環境がなく、当初はめぐまれた天才児たちに遅れをとったものの、時間とともにどんどん自分の能力を伸ばしていた人たちを取り上げつつ、才能はどう伸びるかを探っていく。
メキシコ系移民の家に生まれ、季節労働を手伝いながら育ったホセ・M・エルナンデスは、NASAの宇宙飛行士選抜に11回連続で不合格。それでも資格を一つずつ積み上げ(操縦士免許、スキューバ、ロシア語など)、2004年の12回目の挑戦で候補生に選ばれ、2009年にスペースシャトルで飛行した。
安藤忠雄は、ボクサーを経て、独学のみで建築を学び、「住吉の長屋」や「光の教会」によって世界的な評価を得た。
チェスの全米ジュニアハイ選手権で、英才教育を受けたニューヨークの私立名門ダルトン校のチームを、チェスを学んだばかりの子たちもいる、ハーレムの公立中学のチーム「Raging Rooks」が破った。
いずれも、めぐまれない環境からの遅いスタートから、才能を伸ばして逆転した例だ。
伸びを左右するのは、やり方をどう組み立てるか――すなわち設計である。鍵は三つある。第一に、足場(スキャフォルディング)の設計。建築現場の足場のように、学びがスムーズに構築されていくための一時的な手助けをデザインすること。第二に、練習を「遊び」と「挑戦」として組み替え、苦役のような反復練習をなくすこと。そして第三は「性格スキル」。人柄や態度を“伸びるための技術”として鍛える発想である。粘り強さに加え、やり方を切り替える柔軟さ、必要なときに助けを求める謙虚さ、相手の立場で考える共感力が、上達の推進力となる。
特に三番目は意識を変えるだけですぐに実践できる。もし停滞や限界を感じていて、なにか諦めの気持ちを持っているなら、ぜひ本書を読むことをおすすめする。足りないのは才能ではない。設計と自身の態度次第で、まだまだ私達は伸びる。豊富なエピソードに勇気づけられ、やる気が湧いてくる本である。

