『ある日うっかりPTA』

最近では保護者への負担の大きさから「ブラック組織」などと呼ばれるPTA。4月には、PTAの実態と人間関係のストレスをぶちまけた「PTA早くなくなれ、なくしてしまえ」という匿名ブログも話題になった。さらには千葉の女児殺害事件以来、会長を買って出るようなヤツは怪しいなどとさえ言われてしまう。

そんななか出版された『ある日うっかりPTA』は、ある意味タイムリーな一冊だ。ライター/書評家として活躍する著者の風貌(当時)は、金髪、ヒゲ、サングラス。見た目はまさに「怪しい」のだが、「うっかり」PTA会長を引き受けてしまう。やりたがる人がいないから、手を上げれば誰でもなれる、と著者は言うが、著者自身は、誰かに推薦され、外堀を埋められるように説得され、なんとなく、やってもいいか、と思い始め、さらに前任の役員たちが、次期PTAのなり手が見つからず、本当に困っているのを見て、つい、やります、と言ってしまったのだ。

その三年間のリアルな記録が本書である。もともと反骨心が強く、また子供の頃から団体行動が大の苦手だった著者だが、金髪をバッサリと切って(ほぼ坊主になったため怪しさはあまり軽減されていない)会長職に挑む。しかし疑問は次々湧き上がる。

父母の負担の多さ、PTAがもっとも力を入れる「周年行事」(創立○周年記念式典、というやつです)が、子どもたちと言うより、地元の大人たちのためのものになっていること、PTAの上部団体が自治体や教育委員会からの上意下達の関係になること、などなど。そしてPTA内の人間関係、すなわち揉め事などの難題も降りかかる。でも腐って投げ出したらおしまい。「協調性がないと言われ続けた半生」の著書が、

副会長、会計、書記、各委員会の委員長たちとともに、淡々とチームプレイに徹しつつ、受け入れるところ受け入れ、どうしても納得できないところは果敢に改革していく。

「がんばらない、をがんばろう」(鎌田實さんの言葉)を「裏スローガン」とした(ちなみに表のスローガンは「子供の笑顔を全員で応援」である)、著者のチーム運営は、組織における仕事術としても参考になるだろう。

読みながら、正直、PTAって本当に大変だな、と思う。しかし、その一方で、もっと学校にコミットし、子どもたちのために何かしてやれることがもっとあるような気もしてくる。だが同時にその「子どもたちのために」という呪文こそが、父母たちに過酷な無償労働を強いる「ブラック組織」化を支えているともいえる。答えは出ない。だが、答えがでないままのむずかしい問題を前に、淡々に疑問を解消し、少しずつ問題を解決していく著者の姿勢は、非常に好もしく感じる。

最終章に3期目の会長のときの卒業式での挨拶が全文掲載されているが、これがなかなか感動的で、この部分を読むためだけにも本書を買う価値があるほどだ。ときに自分を殺し、ときには逆に徹底して抗議し、また父母の負担が減るように前例を破って改革する。その行動の基準は、とにかく「未来そのものである子どもたちの希望のため」ということなのだ。PTAは本来、地域とともに子供達の未来を育むためのものであり、そのなかでも、やれることはたくさんあることに思い至るのである。「PTA早くなくなれ」と叫ぶ前に、あるいはPTAの委員を引き受ける前に、ぜひ本書を読んでみてほしい。

『ある日うっかりPTA』杉江松恋著 角川書店/1300円