『バッタを倒しにアフリカへ』

まず表紙カバーのインパクトがすごい。

顔を緑に塗り、頭に触覚をつけ、虫取り網を手に砂漠でポーズを取る青年の写真。彼が本書の著者、前野ウルド浩太郎だ。

著者は、少年時代、ある雑誌で「緑色の服を、大発生したバッタに食べられてしまった女性」の記事を読んだ。そして「自分もバッタに食べられたい」と夢想したという。その時点でかなり変わっているが、彼は実際、幼い日の思いを胸に、長じて本当にバッタ研究者の卵となるのだ。

ところが日本はバッタ研究においては僻地である。なにしろ農作物のバッタ被害が少ないので、研究者も少ないし、お金も出ないのだ。著者が「日本がバッタの大群に襲われればいいのに」と「黒い祈り」を捧げても、当然そんなことは起こらない。

バッタ研究の本場は、空を覆うほどのバッタの大群が、あらゆる植物を食い尽くし、旧約聖書の時代から人類史上幾度となく飢饉を引き起こしてきたアフリカの大地だ。しかし過去40年間、研修を積んだバッタ研究者がきちんと腰を据えてアフリカで研究したことはなく、そのせいでバッタ研究の歴史は止まったままだという。

著者はチャンスとばかり、当時日本人が13人しか住んでいないモーリタニアのバッタ研究所に赴くのである。

ところがいざ行ってみれば、モーリタニアは建国以来最悪の干ばつに見舞われ、バッタが忽然と姿を消してしまっていた。それゆえ研究は難航し、さらに無収入の危機さえ迎える。

しかし、著者はタフだ。現地の同僚に「賄賂」としてヤギを贈ってバッタ群を確保したかと思えば、夜中に砂漠で迷い、サソリに刺され、バッタを追いかけて地雷原に突っ込みそうになりつつ、バッタの群れを追い求める。

そしてついに巨大なバッタ群に出会う。そして著者は何を思ったか、突然、全身緑色のタイツで群れの中に突っ込む。そう、幼い日の夢を叶えようとするのだ。

果たして著者は「バッタに食べられる」という夢を叶えられたのか。
ぜひ本書を読んで確かめて欲しい。

文章もユーモア溢れ、とにかく読ませる。同時に一人の若者が研究者として成長していく過程に、爆笑しつつも胸が熱くなる本だ。

『バッタを倒しにアフリカへ』 光文社新書/920円