金縛りや幽体離脱、憑依、臨死体験などの体験談を聞くことはよくある。これらは長い間、科学の世界では単なるオカルトとして否定され、研究対象となることもほぼなかった。しかし現在は、科学の俎上にのせられ、また科学的に解明されつつあるという。そんな現状を紹介しつつ、医学と死の関係を綴った科学エッセイが駒ヶ嶺朋子の『死の医学』だ。

21世紀の初め、てんかん手術の際に、脳の「側頭頭頂接合部」という部位を刺激したところ、自分自身の姿を自分で見る「自己幻視」、いわゆる体外離脱体験が誘発された。再現性もあり、それを期に、幽体離脱はオカルトや迷信ではなく、科学が対象とすべき、脳の特定の部位への刺激で誘発される生理現象となったのである。

他にも臨死体験は脳内のシナプスのNMDA受容体の機能低下との関わりが論じられるようになり、金縛りは脳幹部が睡眠状態のときに大脳が覚醒することによっておこる現象と認識されるに至っている。

このように、冒頭に記したような超常的な体験は、科学によって解明できそうだ、と著者は述べていくのだが、それらの超常的な体験を冷笑したり、切って捨てたりすることはしないのが面白い。

実は、著者は脳神経外科医であり、科学の側に立つ人だ。その一方で詩人でもあり、芸術的な立ち位置から死を見つめてもいる。アンドレ・ブルトン、ピカソ、能などに触れ、そのような超常的な体験が持つ文化側面も語りつつ、またVRや脳とコンピュータがつながる未来にも言及するのである。

まさに、医師であり、芸術家である著者にしか書けない一冊だ。科学と芸術、テクノロジーと哲学のせめぎあいが、美しい文章によって展開される、極めて魅力的な作品である。

『死の医学』駒ヶ嶺朋子著(集英社インターナショナル新書)