オフコース 『生まれ来る子供たちのために』 (小田和正) 79Express

1980年代初頭、ヒット曲を連発しながらも、軟弱で暗い男の代表格として嫌われてもいた小田和正。徹頭徹尾「愛」の歌を細いハイトーンボイスで歌う作風や、ごく稀にテレビ出演した際のボソボソと話すあまりに非社交的な佇まいは、能天気に明るかった昭和末期という時代背景に於いて、大きな違和感を感じさせる存在でした。

時代は平成となり、ソロシンガーとなった小田さんは中年に差し掛かるにつれ、「朴訥ながら芯の強い、優しい男」キャラに変貌しました。そしてその作風も、よりシンプルなメロディーやサウンドに変化したのです。

しかし、これがつまらなかった。強くなっちゃダメでしょ。

脆弱な心を持つ青年が優しく紡ぐメロディーは、小粋なコード進行や、アコースティックな演奏の響きに優しく包まれますが、彼の声が持つ悪魔的な「弱さ」は決してお洒落な音楽に着地することはなく、その圧倒的に無防備な「弱さ」ゆえの淫靡なエロティシズムは、処女たちの未熟な性欲を疼かせたのです。

先月、中年期のリア充を通り過ぎ、70歳を超えた小田さんを、さいたまスーパーアリーナで見ました。

ヨタヨタと動き回る好々爺。完全におじいさんです。例えばリズム感の衰えは無残な程でした。

しかし、『生まれ来る子供たちのために』のようなバラードは凄かった。老化が世俗的な膂力を奪い去った結果、悪魔的な脆弱性が図らずも復活してしまったのです。青白い光のような淡い情念は、日本文学の神髄を体現する中世の文人のような佇まいでした。

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