第17回 つぶやき板の秘密

春ですね。
暖かくなったり、急に寒くなったり、突風が吹いたり、黄砂が飛んできたり・・・全部が春です。

木の芽どきとも言いますね。
この時期は春の陽気に浮かれてブツブツなにかつぶやきながら歩いている人を散見します。
信号待ちや満員電車の中で隣の人が急につぶやき出すと、その唐突な怪しさで緊張感が一気に高まります。

そして、この「つぶやき」「怪しい」というキーワードが、ワタシの記憶の底から『つぶやき岩の秘密』を呼び出しました(短絡思考です)。

『つぶやき岩の秘密』は、昔々NHKでやっていた少年ドラマシリーズの一作です。
原作は「八甲田山死の彷徨」や「剣岳 点の記」の新田次郎。
ストーリーはまったく覚えていませんが、少年の心に淡い影を残す推理ドラマでした(と内容を覚えていないのに断言してみる)。

この少年ドラマシリーズはほかにもたくさんの傑作があったと記憶します。

推理ドラマ『赤い月』(松本清張原作)、SFドラマの『夕ばえ作戦』(光瀬龍原作、笑点でお馴染みの山田隆夫くん主演)や『なぞの転校生』(眉村卓原作)という錚錚たるラインナップで、子供心を妖しくくすぐったのでした。

数あるシリーズ作品の中でも、もっとも有名なのは第一作目の『タイムトラベラー』(筒井康隆原作)でしょう。

未来人ケン・ソゴル(変な名前)やラベンダーという謎の植物(今は普通に芳香剤の香りですね)、そして過去や未来を行き来してしまう不思議な能力・・・子供を騙すにはこれ以上の道具立てはないですね。(もちろんワタシも騙され、このシリーズのみならず、SF小説や探偵小説に嵌っていき、そのまま人生の隘路に嵌っていったのでした・・・)

『タイムトラベラー』はその後何度もリメークされました。
有名なのは原田知世主演の映画版『時をかける少女』でしょうか。
最近もアニメになったり、実写版再リメークの『時をかける少女』が公開されたり、『トキを追いかける小動物』がいたり、『口説きにかかる中年』がいたり(って、ちょっと違いますね)。

ことほどさように、春の「つぶやき」は人心を乱れさせるものなのです(”ふりだし”に戻る)。
周りの人に誤解されないためにも「つぶやき」は声に出さずに、iPhoneなどの携帯機器で行うのが吉のようです。

携帯機器での「つぶやき」は、今ブレーク中のTwitterのことです。(ちなみにブレークの度合は、ワタシ的にはアマゾンの和書検索ヒット数で算定しています。今日現在”Twitter”でヒットした和書は200件。あのよく意味のわからない流行語の”Web2.0″で検索してヒットする和書が226件ですから、ブレークと言っても問題ないですね。どこかの国家元首もやってるくらいですし)

Twitterのユーザー数は、2008年4月にTwitter日本語版サービスが始まった当初こそ不人気でしたが、2009年7月の日本のユニークユーザーは約50万人、半年後の2010年1月には約470万人!!と半年で10倍の躍進ぶりです。

このペースで進むと来年の1月には日本人ユーザーは約4億7千万人となります。
まさに大流行です(大ウソ、あるいは全体の90%が「なりすまし」でしょう)。

ご存じとは思いますが、Twitterとは、http://twitter.com/ のサイトで自分の好きなユーザー名(誰とも重複しない英字の名称)を登録することで、誰に気兼ねすることもなく全世界につぶやき放題という素敵なツールなのです。

つぶやき放題といっても、登録してつぶやくだけでは、そのつぶやきはヒッソリと電脳の虚空に消えていくだけです。

どうせつまらないつぶやきですから、それはそれでいいのですが(おっと失礼)、もし貴方が寂しがり屋で、そのつぶやきを誰かに聞いて(読んで)もらいたいと思ったら、その時は誰かにフォロー(※)してもらわなければいけません。

※フォローとは世界中のつぶやきの中から、聞きたい(読みたい)つぶやきの発信者を一方的に捕捉し観察することです。ある種のストーカー行為ですね。もちろん、フォローされた側は、イヤだと思ったらブロック(リムーブ)できますのでご安心を。

たくさんの人からフォローしてもらうコツには、まずフォローすることです。

微笑んでほしければ、まず微笑むことです。
悲しいから泣くんじゃない、泣くから悲しいんです(関係ないですね。しかもパクリです)。

Twitterは、相互にフォローをすることによって成り立つ緩やかなネットワークで、気の利いたつぶやきは引用(RT、リツィート)されてフォローの外側の人たちにも広く伝播していきます。

時系列(タイムライン)にオフィシャルなニュースからごく私的な話題までが玉石混淆で流れていく、これがTwitterです。

Twitterの人たちのよく使う用語に「新橋なう」、「立ち飲みなう」、「うなぎなう」のように「○○なう」という言葉があります。
これは「今、ここにいるよ」「そばにいるね」「今、○○をやってるよ」という言い回しのことです。
シンディ・ローパーが最初に「Hey Now(ヘイ、ナウ)」と言ったのが始まりといわれています(ウソです)。

そうそう重要な約束ごとを忘れていました。
Twitterのつぶやきは1件あたり140文字以内という制約があるのです。

開発者が利用していたショートメッセージの文字制限が160文字だったので、宛先の文字数を考慮して140文字にしたという説がありますが、その信憑性は定かではありません。

たぶん他人のくだらない長いつぶやきは聞きたくないし、なによりも140文字もあれば、なんでも表現できるというのが真相でしょう。

Twitterの人たちはなんでも140文字で表現します。
例えば、

『春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。夏は夜。月のころはさらなり、やみもなほ。蛍の多く飛びちがひたる、また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。』ここまでで115文字。
ちなみに、このように思いのままに綴られたつぶやきは、Twi筆(ついひつ)と呼ばれています。

『「ワトスン、ぼくは出かけなければならないようだ」ある朝、いっしょに朝食のテーブルについたときホームズは言った。「出かけるって、どこへ?」「ダートムアだ-キングズ・パイランドだよ」私は驚かなかった。実のところ、イギリスじゅうで大評判のこの異常な事件に、彼がまだ手を出さないこと・・・』以上140文字。(「シルバー・ブレイズ号事件」大久保康雄訳 ハヤカワミステリ文庫)

この謎めいたつぶやきは、Twi理小説(ついりしょうせつ)と呼ばれています。。。

こんなくだらない事ばかり書いていると本当はTwitterのことを知らないのではないかと疑われそうです。

それはちょっとくやしいので、誰も知らないTwitterの起源についての秘密を特別に公開しちゃいます。
以下に述べることは、「ダ・ヴィンチ・コード」を凌ぐ今世紀最大の秘密で、今後、学会でも論争の笑点、じゃなくて焦点になると思われますので、不用意な他言は無用にてお願いいたします。

Twitterの起源には大きく二つの説があります。

一つは、紀元前のエジプトで発祥したという『エジプト起源説』。

エジプトの二人の登山家チャールトンとヘストンが天上の「つぶやき」を聞こうと、世界でもっとも高い山(たぶんエベレストでしょうね)にブツブツ言いながら登頂し、天上に向かって「つぶやき」を求めること十回。

天上の人がそのしつこさに耐えかねて、つぶやきを書いた岩板2枚を授け、その2枚に書かれた10個の「つぶやき」をリツィートしたというのがその始まりという説です。(歴史家メル・ブルックス?は、岩板は本当は4枚あって「つぶやき」は20個あったのに、チャールトンかヘストンのどちらかが手を滑らせて岩板2枚を砕いてしまったので、2枚10個の「つぶやき」しか残らなかったという異説を唱えています)

今ひとつの起源説は、平安時代の日本にその源を求めるもので、『日本起源説』と呼ばれています。

この説はそもそも31文字であらゆる表現が可能であると当時の貴族・僧らが形式を整えていったものです。

まだブロードバンドのなかった時代ですから、誰かの家に集まったり、花見などの宴席の際に「つぶやき」用の短冊を手に、それぞれが「つぶやき」あうというものでした。

その当時の代表的な「つぶやき」として、

「天つ風 タイムラインを 吹き閉じよ 乙女の「つぶやき」 しばしとどめん」が語り継がれています。

その後、時代は下って江戸時代の初め頃から、「17文字でもつぶやけんじゃねぇか?」という一派が現れ、その形式が追究されていきました。

その代表作としては
「つぶやきを 集めて早し タイムライン」というものがあります。

その後近代に向かって、もっと短くつぶやけるのでは、という破調を好む人々が、

「フォローしても フォローしても リムーブ」
「つぶやいても ひとり」

など歴史に残る「つぶやき」を残していったのでした。。。

『エジプト起源説』と『日本起源説』のどちらが正しいのかは、今後の研究であきらかになっていくことでしょう。
ただ、やはり日本人のワタシは『日本起源説』が正しいと信じたいですね。

なにしろ、わびさびを重んじる古今の俳人の詠んだ「つぶやき」には、今どきの「つぶやき」にはない深い味わいがありますから。

最後に五句ほど鑑賞して今後のTwitterの行く末を案じたいと思います。

【妻も吾も みちのくびとや 鰊食ふ】
(つまも吾も みちのくびとや にしんくふ)山口青邨

【葡萄垂れ 下がる如くに教へたし】
(ぶどうたれ さがるごとくに おしへたし)平畑静塔

【山の墓 訪ふ人もなく 九月尽】
(やまのはか とふひともなくくがつじん)石垣辰生

【栗飯に よんでもらひし月夜かな】
(くりめしに よんでもらひし つきよかな)嶋田青峰

【春雨や 蜂の巣つたふ 屋根の漏り】
(はるさめや はちのすつたふ やねのもり)松尾芭蕉

※字余りや季が違っているのはご愛敬です。

※Twitterにも俳句分野?があります(#haiku というハッシュタグで検索すると世界中の人たちの俳句・HAIKUを読むことができます)。

※※以上、春の妄想をつぶやく人を演じてみました。上記文章の中における実在する(した)と思われる人や事実はところどころ本当ですが、大抵はウソです。これに関しての責任の所在は春の陽気にあります(なんのこっちゃ)

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