第42回 「サ」がつくもの

40年ほど前に解散したトワ・エ・モアというデュオが・・・・・・と書きながら、念のためにWikipediaを見てみると二人は1998年に再結成して現在も活動中なのでした。。。適当なことは書けないですね。

そのトワ・エ・モアには『或る日突然』二人黙るという歌や『誰もいない海』、『虹と雪のバラード』など数多くのヒット曲があるのですが、『「ア」がつくもの』というあまり知られていない(?)歌もあります。

「ア」がつくもの♪愛だけあるの♪、というような歌詞でした。

「ア」がつくものが、「愛」だけというのはいかがなものか、という世論の声もありますが、それは置いといて、今回は「サ」がつくもののお話しです。(前置きが長いです)

この時期、「サ」がつくものと言えば、北上中の「サクラ」前線が真っ先に頭に浮かびます。

なぜか日本人はサクラが大好きですね(この件に関しては有史以来100万人くらいの人が考察しているので、特に触れません)。

「お花見」の「花」は桜と決まっています。梅でも蘭でもチューリップでもないのです。
ましてや長澤まさみや堀北真希や原節子ではないのです(彼女たちは高嶺ではありますが)。

一休さんも、「花は桜木、人は武士(男は花道、じゃないですよ)」と言っています。

和歌の世界でも美男の誉れ高い在原業平さんが

「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」

と詠っています。

(たしかに、この世に桜が無ければ、いつ咲くかとか、いつ散るかと思い悩むこともないですし、花見宴会の騒々しい酔漢も現れないので、のどかなことでしょう)

対するに美女の代表格で業平さんに片思いの小野小町さんは

「花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに」

と詠っています。

(時が経って色褪せた桜のように、ただなんとなく時間が過ぎて自分の容色も褪せてしまったわ、キーっ悔しい的な歌ですが、桜は色褪せるよりも散るものですね。花の種類が違うのかも・・・。それにしても、「弁慶と小町はバカだなぁ云々」という古川柳がありますが・・・、桜とは関係ないので割愛します)

時代はくだって武士から「とらばーゆ」した桜好きの西行法師さんは

「願わくば花の下にて春死なむそのきさらぎの望月の頃」

と詠っています。

(この願いのとおり桜の満開の時期に亡くなられたそうです。なんでも願ってみるものですね)

昭和の初めに書店にて、レモン爆弾テロを企てた梶井基次郎さんは

「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」

という書き出しの短篇を書いています。

(桜の淡い桃色は不可思議です。とくに夜桜は観る人の気持ちを妖しくさせます。そして樹の下に埋まっているのはもちろん西行法師です)

なんだか、話がヘンな方向に行きそうなので、まったく別な「サ」がつくもののお話しをします。

それは「サウナ」です。
正式には「サウナ風呂」、フィンランド発祥のお湯のないお風呂です。お湯はないけど風呂なので裸です。って、たいていの人は知ってますよね。私も以前は「たいていの人」と同じくらいのレベルで知っていました。

具体的には、室内プールやスポーツジムなどにあるサウナに、プールで冷えた体(暖まるまで泳いだことがない、というよりも泳げない)を暖めるために何度か入ったことのあるレベル。

理解度としては、摂氏100度くらいに熱せられた木の部屋の中で、ただひたすら熱さに耐えながら、汗をかく。

力石徹は減量のために入っただろうけど、M系の人は新たな境地を開拓するためで、一般の人なら修行か、ある種の罰ゲームに用意された施設であるに違いないという生半可な理解。

そんな誤った漠然としたサウナ感しかなかったのですが、数年前にある人からサウナのコツを教わって、サウナの魅力の一端に触れたのでした。

そのコツとは、熱いサウナ(蒸し風呂)と冷たい水風呂のアンサンブルなのですが、その具体的方法は後で詳述するとして、一旦、一端に触れると、すぐにのめり込む性格ゆえ、その後も折に触れ、健康ランドやスーパー銭湯のサウナで、サウナの道を究めるべく精進に精進を重ねることとなったのでした。

普段は熱しやすく冷めやすい性格なのに、この件だけはなかなか冷めません。
熱いサウナだけに(と上手いことを言ってみる)。

そもそもサウナにどうやって入るのが正しいのか?
国際的なルールはあるのだろうか?
いろいろ調べてみましたが、こればかりは諸説あって、定説はありません。

定説はありませんが、原則はあります。
日本におけるサウナの原則は、全裸で、サウナ(蒸し風呂)に入って十分に茹であがってから、水風呂に入ってクールダウン、その後お風呂内の椅子などで十分にボンヤリしてから、またサウナに入り・・・以下、繰り返し。

原則から進んで、もう少し詳しく説明します。

1.全裸で入ります。

服を脱いで、サウナに入りましょう。体に昇り龍や桜吹雪の絵が書いてある人は服で隠さず、潔く諦めましょう。

2.サウナ室に入る前に体を洗います。

体を洗わなくてももちろん入れますが、明らかに(!)体を洗っていないおじさんが間近にいるのは落ち着きません。

そんなおじさんが背中に汗の粒を規則正しく綺麗に並べていたとしても、誰も触れたいとは思いません(ちょっとは
触りたいですが。。。あ、体をキレイに洗っている人にも触れてはいけません)。

体を丹念に洗うと、背中の昇り龍や桜吹雪の絵が流れ落ちるかもしれません(無理です)。

3.サウナ室では常識の範囲内で行動します。

サウナ室内は、木の横長のシートがひな壇のように2段から4段設置されています。
その中で自分の好きな場所に座って汗をかきます。

思い思いにリラックスしていいのですが、あくまでも常識の範囲内で行動します。
ときどき、寝そべって4人分の席を独り占めしたり、いきなり腕立て伏せを始めたりする人がいますが、これはいけません。

立っている人がいるのに、席に手荷物を置いたり、お年寄りに席を譲らないなど言語道断です。
携帯電話はマナーモードに設定し、通話はサウナ室の外でするのは当然と言えましょう。

ヒトが使っている砂時計を途中でひっくり返すのは止めてください。あっ、まだ砂が半分以上残っているのに、何分入ったかわからなくなりました・・・が、だからと言って、また元に戻さなくても。。。

サウナ室のテレビのチャンネルは変えられません。仮に高校野球が終わって、Eテレ本来のテレビが始まっても、おじさん達みんな仲よく歌のお姉さんやワクワクさんを見ましょう。

サウナ室で過ごしていると気分は禁欲的なポジティブ状態(?)になってきます。でも長居は禁物です。室内にいる時間の目安は10分から12分です。その日の体調によって調整しましょう。

4.水風呂でも大人の行動をします。

サウナ室で十分に暖まったら、次は水風呂に入ります。サウナの真骨頂は水風呂にあると言っても過言ではありません。

体が熱いからと言って、いきなり水風呂に飛び込んではいけません。
まず、かけ湯やシャワーで汗を流しましょう。多少のお湯は火照った体にはぬるく感じます。

体の表面から汗を洗い流したら、足先からゆっくり水風呂に入ります。
時々頭から飛び込むヒトがいますが、水風呂の底は浅いので、かなりの確率で額を割ります。流血事件発生です。愉しいサウナが一瞬で全日プロレスのリングのようになってしまいますので、くれぐれも足から入ります。

足の次に顔を水に浸けようとするのは不自然です。脇腹の筋肉を攣ったりします。

足の次は腰、胸と順に浸かっていきます。首まで浸かったら、そこでストップして寛ぎましょう。それ以上潜ると溺れます。

初めての時は冷たくて寛げません。「冷てぇよ。バカヤロ。風邪ひくだろぉ」という言葉は飲み込んで、寛いだ振りをしましょう。ここはヤセ我慢です。ヤセ我慢をしているうちに、冷たい水が心地よくなってきます。

この心地よさは、サウナと水風呂のパターンを繰り返していくうちにどんどん深まっていきます。

やがて熟練してくると涅槃が見えるようになります。これがサウナの醍醐味なのです。

でも、初心者はちょっと心地よくなったところで、水風呂からあがりましょう。

ある意味、初心者も涅槃に近い位置にいるのです(熟練者と違う種類の涅槃ですが)。

注意しましょう。

5.適当な場所でダラッとします。

水風呂からあがると、体の表面はシャッキとしているのに、内部はダラッとしてる場末の盛り蕎麦状態になります。心の中はリラックス&充足感です。この時間帯は適当な場所を探してダラッとします。

伸びて横になれる椅子があれば最高です。全裸でウトウトします。軽い妄想や人に言えない願望を脳内で実現しながら10~20分くらいを過ごします(注:妄想や願望はあくまで個人の主観です。一般的なサウナの効用ではありません)。

6.水を飲みます。

しばらくダラッとして、あんなことやこんなことを考えた尽くしたら、再び2.の工程(!)に戻ります。

でも、サウナ室に向かう前に重要なことがあります。
水を腹一杯飲みます。

本当はサウナのあとのビールが最高だから余計な水分は摂りたくない!!と思っても、もう一度サウナ室に入るのならば、水を飲みましょう。知らないうちに(ってことはないですが)体内の水分は失われています!!まず、それを補ってから第2ラウンド突入です。

7.サウナ→水風呂→ダラッと妄想→水を飲む→サウナ→・・・の繰り返し

これを3セットくらい繰り返すと、体内の水分が入浴前と全て入れ替わります。

人間の体は成人ならば60%は水ですから、サウナ前とサウナ後は60%別人となるのです。

これを6セット繰り返すと、120%入れ替わりますから、もはや自分ではありません。
誰だかわからなくなってしまいます。

そして「いったい自分は誰なんだろう。それにしてもノドが乾くなぁ・・・」とお風呂屋さんの近くのコンビニで缶ビールを買うのです。

プシュっとプルトップを引いて、ゴキュゴキュと勢いよく冷えたビールを流し込むと、その仰いだ先には桜が満開で・・・・・サウナからサクラへの黄金リレーによる日本の春を満喫できるのです。

(以上、「サウナ風呂男性編」の無理矢理のまとめなのでした。次回「サウナ風呂女性編」をご期待ください)

謝辞:サウナの世界の扉を開いてくれた心の師匠N氏にこの場を借りてお礼申し上げます。

参考図書:「サ道」(タナカカツキ著 PARCO出版)注:サウナ体験には個人差があります。各自の心の師匠のお言葉に従って無理せず体験しましょう。

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