第94回 おいかけて宿題

夏休みも終わり、小中高生が学校へ通ういつもの風景が戻ってきました。
子供たちの夏休みの宿題は無事に終わったのでしょうか?
(最近、私は観なくなりましたが、「サザエさん」のカツオくんは宿題を終えたのでしょうか?)

「子供の宿題には終わりがあるけれど、大人の宿題に終わりはない」と古代ペロポセズの喜劇作家アリストゴーネンが言っていましたが、まさにその通りです。以下、宿題にまつわる最近の出来事をいくつか。。。

宿題その1

この夏、私は「突発性脱毛症候群」に見舞われました。
ことの発端は、半年前から密かに使用していた育毛剤でした。
高価なものですが、最近衰えの見えてきた頭髪を復活させるべく月に1本のペースで育毛剤を消費していました。
しかし、その効果があるのかないのか微妙で、そろそろ使用を見直そうかと考えていた7月初め、それを察したかのように薬局のおじさんが育毛剤の効果をアップさせるシャンプーを勧めてきました。
疑うことを知らない生まれたての子羊のような私は勧められるがままに育毛剤とシャンプーをセットで購入したのでした。

シャンプーと育毛剤の効果はてきめんでした。使用後すぐに頭皮がむずむずし出しました。
きっと毛根が元気になって、発毛活動を開始したに違いない。
そう確信した私は毎日シャンプーと育毛剤のコラボ活動に励みました。
一週間、励んだところで、頭皮もその努力に応えるように(?)ハゲみだしました。
頭皮のむず痒さは尋常じゃなく、洗髪時には選抜された頭髪が先を争って下野しだしました。
あれ?これって、育毛じゃなくて、脱毛じゃね?やばいんじゃね?(動揺のあまり言葉使いも乱れてしまいました)

あわてて近所の皮膚科に行きました。
初老の先生は、私の頭皮をまじまじと見て、やおらピンセットを取り出すとプチっと髪の毛と頭皮を剥いで、診察室を出ていきました。(直接見たわけではありませんが、その瞬間痛かったので、頭皮を剥いだに違いないのです。ワタシ ウソ ツカナイ)
先生は、2~3分で戻ってくると、
「うん、カビじゃないね。湿疹のようなものだね。塗り薬と痒み止めを出しておきますね。一週間後にまたきてください」と言って、カルテになにやらサラサラ書くと「お大事に」と言って、私を診察室から追い出すのでした。
カビじゃない、って言われても。。。

私が一番知りたかった「今後、毛髪はどうなっていくのか!?」問題は訊けずじまいでした。
今後、一週間、毎日塗り薬を塗るという宿題を出された私は、ただただ途方に暮れるしかないのでした。

背後から光があたると、薄くなった毛髪が透けて、頭の形がくっきりとわかり、徳の高い僧侶のようになりました。
知人からは「後光が差して神々しい」と合掌されました。

 

宿題その2

今年はスルメイカが不漁だそうで、憂慮しています。

イカ刺しやイカソーメンがますます手が届かなくなりそうです。
アタリメは滅多に口にしませんが、熱燗をいただくときには欠かせないものです。
炙って裂いたヤツをそのまましゃぶったり、マヨネーズと七味でアクセントをつけたりして、じっくり味わえますから、てなことを考えていたら、うちにアタリメがあったことを思い出しました。

昨年、親戚からいいアタリメをもらって、食べきれないのを冷凍保存していたはずです。
で、冷凍庫の奥を漁ると、冷たく堅くなったアタリメが出てきました。
色は澱んでますが、焼けばなんとかなるでしょう。
で、早速、コンロでアタリメを炙りつつ、電子レンジで日本酒を燗します。
熱々でクルリと丸まったアタリメを軍手で裂いて、熱燗といただきます。

アタリメは熱くて堅い。
ゆっくりしゃぶれば良かったのに、右側の歯で噛みしめながら、手で引きちぎろうと頑張った途端、右上顎に激震が走りました。
なんと右上の歯の被せモノがとれたのです。外れたソレはどこかに飛んでいきました。(僕のあの被せモノ、どうしたんでせうね?)

宿題として、人生で二番目に嫌いな場所、歯科医院に行かなくてはならなくなりました。

 

宿題その3

最近ますます老眼がひどくなり、紙に字を書いたり、PCのディスプレイの文字を見たりするのが、つらくなってきました。
キーボードで文字を打つのにも、時間がかかるようになってきました。
というわけで、宿題のこのコラムの締め切りは守れていないのでした。

「期限までに為された宿題は皆おなじ装いをしているが、果たされない宿題はそれぞれに特別で独創的な衣装を着ている」(ロリシカ国の文豪ニューカーク・ネルソンの小説「インファント」からの引用)

 

※以上の文章は、高校生の甥に現代文の「創作」の宿題を手伝ってと頼まれたので、最近起こったことを虚実綯い交ぜにして、エッセイ風に仕上げてみたものです。
でも、甥からは「オレは髪の毛も歯も眼も大丈夫だ」と却下されてしまいました。トホホ。