『僕には鳥の言葉がわかる』

喜ばしいことに『僕には鳥の言葉がわかる』が売れている。

著者の鈴木俊貴さんは鳥類学者。大学院時代から鳥たちの声に徹底的に耳を傾け、「シジュウカラは一定の文法を持つ言葉を話しているのではないか」という仮説を立て、その証明に挑んできた方である。

なによりその実験方法の洗練と美しさに感銘を受ける。鳥が言葉を使うことへの、反論の余地のないような見事な実験。しかも、そのエレガントな実験が、「ただひたすら森に出かけて鳥を観察し、試行錯誤し、考え続ける」という極めて泥くさい現場主義から生まれているところが素晴らしい。

「森に棲む鳥をほぼすべて捕獲」し、「ノイズの少ないきれいな鳴き声をたくさん録音」するといった記述がある。これは実行するには想像を絶するような苦労があるだろうに、鈴木さんはあっさりと触れるのみだ。“好き”なことに没頭する人には、それほどの困難も苦労のうちに入らないのだろう。それこそが研究者の強みなのだろう。

鈴木さんは、アリストテレス以降、2000年にもわたって信じられていきた「言葉を話すのは人間だけ」という前提を厳密な実験で突き崩し、「人間の言語も動物の言語の一つにすぎない」というまったく逆の視点を示した。

そして国際行動生態学会(ISBE)という動物行動学最大級の学会で基調講演で(この基調講演を依頼されること自体、とんでもなくすごいことだ)、「動物たちの豊かな言葉の世界を共に解き明かそうではないか!」と動物言語学という新たな学問の創設を呼びかけるのだ。

ひたすら鳥の言葉に夢中になっていた青年が、やがて世界的な学会で基調講演を担うスター研究者へと駆け上がっていくストーリーは、読み手の胸を熱くさせる。

さて、鈴木さんは歴史的な偉業を成し遂げたものすごい研究者なのだが、本書の文体、そして本書から垣間見えるお人柄は、実にほのぼのとあたたかく、まるで小鳥たちのさえずりのような微笑ましささえ感じる。そんな鈴木さんの人柄も本書の魅力の一つである。

『僕には鳥の言葉がわかる』 鈴木俊貴著 小学館