『しんがり 山一證券最後の12人』 (講談社+α文庫)

WOWWOWの連続ドラマ「しんがり山一證券 最後の聖戦」が抜群に面白い。
第一話、第二話は放送済みだが、オンデマンドでも視聴可能なので、契約している方はぜひ見ていただきたい。

このドラマの原作は、昨年の講談社ノンフィクション賞を受賞した『しんがり 山一證券 最後の12人』。こちらもすばらしく面白いノンフィクションだ。
ちょうど文庫版が登場したばかりなので、今回はこの本を紹介したい。

’97年、山一證券が自主廃業した。三千億円もの損失隠しのため、会社更生法の適用さえされず、百年の歴史を持つ大手証券が文字通り消滅したのだ。

社員たちが転職していくなか、最後まで会社に踏みとどまった人達がいる。
それが本書の主人公たちだ。表題の「しんがり」とは、戦に負けて敗走する際に最後尾で戦い、味方を逃がす兵士たちをいう。山一證券の「しんがり」たちは会社の清算業務と併せて、社内調査報告書を作るため、薄給/無給で作業は過酷、しかも就職は遅れるという割にあわない仕事に取り組むのだ。

しかし彼らの思いは熱い。自分の会社の不正は自分たちで明らかにする--そう誓った社内調査委員会のトップ・嘉本隆正らは、幹部らをヒアリングし、社内に隠された資料を確保するなど、徹底的に調べ続ける。

不正の根幹は、法人営業部門の暴走だった。暗に利益を約束する「ニギリ営業」で契約を取り、損失が出たら、決算期の異なるダミー会社に次々に「飛ばし」て隠蔽する。嘉本らはその酷い手法に怒りを覚えつつ、ついに報告書を完成させる。百六ページの厚さ。すべて実名で飛ばしの実態を解き明かし、歴代経営陣を遠慮なく弾劾、大蔵省(当時)の調査にさえ疑念を呈した。

マスコミに公開されると記者たちも仰天した。翌日の新聞には「日本企業の歴史に残る内省の資料となるだろう」という言葉が記された。彼らの思いと努力が世の中に通じた瞬間である。

克明かつ明解な記述で、組織が腐るとは、そしてその中で人としての矜持を保つとはどういうことか思い知らされる。と同時に、しんがりたちの生き方が、利ではなく義に生きた、破格の戦国武士たちを想起させ、胸に熱いものがこみ上げてくるのだ。

著者は、一昨年に読売巨人軍のゼネラル・マネージャーを解任されたが、隠然とした影響力を持つ社内の大実力者に抵抗した、という意味で、本書の主人公たちと重なるところもあるだろう。

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