『メイドインジャパンをぼくらが世界へ』山本典正 山田敏夫著

「日本のものづくり」にこだわった二人の若い経営者による対談本。

経済面での良いニュースが聞かれず、閉塞感につつまれている昨今だが、そんな状況下でも活き活きと未来を語る二人の姿勢に、読んでいてとても元気になる本だ。

「紀土」という日本酒で知られる和歌山の蔵元・平和酒造の山本典正と、高度な技術を持つ日本の縫製工場で作られた服を、インターネットを通じて販売するファクトリエの山田敏夫。

日本酒の市場は最盛期の3割まで縮小しており、アパレルの国産比率は現在わずか3%と、ともに極短な右肩下がりの斜陽産業に飛び込んだ若き二人の経営者には、微塵の暗さもない。

山田は、「すぐれた技術を持った日本の工場から世界的なブランドを作る」と高らかに宣言し、山本は、日本酒のイベントなどに関わりながら、「ああ幸せな時代に生まれたのだ」 としみじみと思う。

当然だが、二人は厳しい現実を前に苦労もしている。

山田は夜行バスで各地の縫製工場を訪ね、直談判しようとするが、ほとんどで門前払い。

漸くある工場から400枚のシャツを仕入れるが、最初の月に売れたのはたった2枚だった。

トランクにシャツを詰め込み行商して売り歩いたという。

ベンチャー企業で働いていた山本は、実家の酒蔵に戻り、ただ独り旧態依然とした仕組みを変えようと奮闘し、苦しむ。

改革を急激に進めようとして、多くの社員がやめてしまったこともあるそうだが、杜氏中心のシステムを変え、今では若手が活き活きと働ける場となっている。

とはいえ、これまでの業界のあり方を彼らは全否定するわけではない。

山本は「負の遺産が未来の貯金に見える」と語る。

二人に共通するのは、閉塞感に満ちた業界のなかで、巧みに仕組みを変えて、誰もが得をするようなビジネスモデルをうまく作り上げていること。

堀江貴文に象徴されるような「旧世代の経営者」(と彼らは呼ぶ)とは価値観が大きく異なるという。

二人が意気投合する経営に関する考え方は、例えば、「非効率性が大事」「売上が大きいからって面白いことをやれる時代ではない」「100年後に会社がどうなっているかが大事」「 メイドインジャパンにこだわるため、マスの市場は取らず、大企業の戦略も採らない」などなど……。

なかなか希望持つのが難しい現在の日本で、二人は現状をきちんと把握しつつ目を輝かせながら未来への希望を語っている。その姿には大いに勇気づけられる。

なお、意気投合して語る二人には、その経営思想以外にも大きな共通点がある。それは それぞれが使っている商品か彼らが語ることと、考え方と1ミリもブレていないことだ。

「紀土」は基本に忠実でしっかりと作られている衒いのない酒であり、同時に日本酒を飲んだことがない人に、「ほら 日本のお酒ってこんなにおいしいんだよ」 と訴える軽やかさとポピュラリティがある。とても気持ちよく飲める酒だ。

それは、日本で生まれ日本で作られたまっとうな酒をもっと知ってもらいたい、もっと広がって欲しい 、という山本氏の思いと一致する。

そしてファクトリエの服は、縫製が本当にしっかりしていて誠実そのものだ。
実直な日本の職人の資質が体現されたよう。着心地は抜群でいつまでも着ていたい気持ちになる。

いずれもとても正直で誠実な「もの」であり、それは二人の経営者の性質と見事につながるのである。

実は今、ファクトリエのボタンダウンシャツ(人吉)とオリジナルクラシックジーンズを着て、「紀土 純米酒 あがらの山廃生原酒」たしなみ、二人の出身地である熊本や和歌山の風土に思いを馳せつつ、本書を読み直している。

それは「メイドインジャパンの至福」に包まれた極上の体験である。

ファクトリエ factelier.com
平和酒造 http://www.heiwashuzou.co.jp