『クマゼミから温暖化を考える』 沼田英治著 岩波ジュニア新書
今回は夏休みらしい一冊をご紹介。
今、大阪市内のセミたちに異変が起きているという。
かつて大阪市内で見つかるセミは主にニイニイゼミ、アブラゼミ、ツクツクボウシで、クマゼミは少数派であったという。
ところが、2000年以降、クマゼミが圧倒的な多数派にとなり、見つかるセミの9割以上がクマゼミ、公園によってはほぼ100パーセントクマゼミ、というところもあるらしい。
本書はその原因を探りつつ、科学的な研究の基本的な態度はどうあるべきかを示す良書だ。
このクマゼミの増加について、報道などでは短絡的に「地球温暖化のせいだ」とする論調が多いそうだ。
しかし、著者は、一度立ち止まり、「果たして本当にそうなのか?」を、検証していくのである。
まず、著者はクマゼミがどれぐらい移動するのかを、クマゼミの羽根に油性ペンで印をつけて飛ばすというシンプルな方法で調べる。
住民に協力してもらい、印のついたセミを発見したら教えてもらうのだ。
結果、公園で放したセミはほとんどが同じ公園で見つかり、最長でも1.2キロメートル程度しか移動しないことがわかった。
すなわち、クマセミが自力で遠くから移動してきたわけではなく、植樹などの際に木と一緒に運ばれてきた可能性が高い、というわけだ。単純に、暖かくなったことでクマゼミが自ら生息範囲を広げたわけではないのだ。
さらに著者は「温暖化によって冬の気温が上がったために孵化しない卵が減ったからではないか」「夏の乾燥化のせいで幼虫が死んでしまうのではないか」などと仮説を立てて検証していくのだ。
さて、著者の研究の結果はどういったものだったのか?
詳しい結論は本書を読んでほしいが、簡単に言うと、クマゼミの増加に地球温暖化は関係はあるが、「暑くなったからクマゼミが増えた」というような単純なものではなく、意外な要素が関わっていることがわかるのである。
セミは、抜け殻で区別がつくので、抜け殻を集めればどんなセミがどれぐらいいるのか、簡単に統計を取ることができる。だから小学生の夏休みの自由研究としてもやりやすい。
本書の内容は小学生にはちょっと難しいかもしれないが、親が噛み砕いて教えつつ、一緒にセミについて研究すれば、子どもたちに科学的思考とは何かを学ばせることもできるだろう。