『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』
『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』は、「書字障害(ディ
スグラフィア)」の当事者が、14歳のときに自ら綴った初めての本である。
本を読むのは大好きで、知識欲も旺盛な少年だった。けれど漢字を学ぶ段になっ
て、ある奇妙な事実に気づく――自分は、字が書けない。数十字を手書きしただ
けで息切れがする。クラスメイトと同じノートを取れない。「なまけている」「
やる気がない」と片づけられがちな苦しみのなかで、彼は小学4年生のときに、漢
字を書くことを諦めた。
しかし、小学5年生の冬。母親に連れられて出会った支援団体「読み書き配慮」の
プログラムが、彼の世界を変える。タブレット、自分の特性の理解、そして学校
に「合理的配慮」を求める交渉術という武器を得て、著者は、学校で、はじめて
他の子と同じ速度と正確さで「書ける」体験をするのだ。
文科省の調査では、小中学生の約3.5%、35人学級にほぼ1人が読み書き障害を抱
えている可能性があるという。本書が貴重なのは、その当事者が、なにより若い
感性で、自らのリアルな言葉で、絶望と回復の手触りを細やかに、それでいて、
冷静でメタな視線で、記していることだ。当事者でなければ書けない細部――書
けないことへの恥ずかしさ、配慮を求めることのためらい、テクノロジーが扉を
開いた日の高揚を、読み手もリアルに体験することになる。
著者は、自分の物語を「お手本」にしてほしくはないと釘を刺す。「人生は非線
形」であり、本書は一つのモデルに過ぎない。大事なのはそれぞれの子にふさわ
しい学び方を、大人が一緒に探すこと――ノウハウ、やり方、メソッドではなく
、一人ひとりの存在自体をしっかり「見る」こと。それこそがわれわれ大人の役
割なのだろう。
『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』朝野幸一著 新潮社

