『鳥は飛びながら眠る──超小型センサーで覗く野生動物の私生活』
『鳥は飛びながら眠る』ことがわかったのは、バイオロギングという手法のおかげである。著者は、野生動物に切手大のセンサーやカメラを装着して、克明に記録する「バイオロギング」の第一人者。前著『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』で毎日出版文化賞を受賞している。本書は著者自身と仲間たちの最新研究を、現場のエピソードを交えつつ、五章にまとめたエッセイ集である。
グンカンドリは、海の上を一週間ぶっ続けで飛ぶ。その頭に脳波計をつけてみたら、本当に飛びながら、左右の脳を交互に休ませて細切れに眠っていた。シュモクザメは体を横倒しにして泳ぐが、その姿勢が浮力をうまく稼ぐ省エネ術であるらしい。バイカル湖の固有種のアザラシは、わずか数センチの端脚類を一晩に四千回も捕食していたーー。どれも、生き物に直接センサーをつけてみなければわからなかった事実だ。
その「事実」にたどり着くまでの過程も、読みどころのひとつである。サメに機器を取り付け、しばらくしてふたたび捕まえて回収するまでのやりとり、北極海で機械が戻ってくるかどうか、グンカンドリの頭に脳波計をどう固定するか。たった一個のセンサーを回収するのに、研究者たちは苦労に苦労を重ねてきた。データが軽やかに語られる裏に、泥臭い、現場での試行錯誤とリアルな知の積み重ねがあるのだ。
終章のヒヒも興味深い。ヒヒには確固たる序列がある。にもかかわらず、群れでサバンナを歩くヒヒたちが、次にどこへ向かうかを決めているのは、ボスではなく「多数決」だという。一匹または複数の「発起人」(発起ヒヒ?)が、ある方向に歩き出し、支持するメンバー増えると、そちらに群れ全体が動き出す。そこに「発起人」の序列は無関係だった。また、二匹の「発起人」がおのおの違う方向に歩き出したときは、その中間、つまり「折衷案」を採用する傾向も見られた。それまで、バイオロギングは1個体につけるのが普通だったが、この研究では、群れごと捕獲して、集団としての傾向を見る、という画期的なものだった。
バイオロギングから見えてくるのは、「いきものは怠け者である」ということ。彼らは無駄なエネルギー消費を嫌う。その行動はエネルギー収支に支配されているのだ。飛びながら眠るのも、体を横に倒して泳ぐのも、小さな餌を何千回食べるのも、その法則にしたがっている。
この視点でヒトを眺めると、どうなるか。なぜ我々は友達を作るのか、なぜ麻婆豆腐(著者の大好物だそうだ)はうまいのか。なぜヒトには閉経があり、「おばあちゃん」という存在がいるのか。動物たちの私生活を覗いたさきに、自分自身の身体と暮らしの謎が立ち上がってくる。そして、つまるところ我々もまた、エネルギー収支とにらめっこしながら生きている野生のいきものなのだ、と思い至るのである。
『鳥は飛びながら眠る──超小型センサーで覗く野生動物の私生活』渡辺佑基著 中公新書

