『渋谷ギャル店員 ひとりではじめたアフリカボランティア』

アフリカ南部にある国・モザンビークを先月、サイクロンが襲い、大統領は「死者が1000人を超える恐れがある」と発表した。それどころか、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の声明では、サイクロンが襲来した人口53万人のベイラ一帯の9割が「損壊し破壊された」という(時事通信より)。

そんなニュースが気になったのは、ちょうどモザンビークに関するすごい本を読んだからだ。書名は『渋谷ギャル店員  ひとりではじめたアフリカボランティア』(栗山さやか著)という。正直、タイトルから想像して、大した内容ではないと思っていたが、実際に読んで驚いた。確かにタイトル通り、「ギャルだった若い女の子が海外に出てボランティアをした」という話なのだが、その詳細がいちいちすごいのだ。

そもそも、「渋谷ギャル店員」といっても著者はギャル時代に、渋谷109のギャル系ブランドショップの店長にまで上り詰めている。それだけで、分かる人には彼女がどれだけ根性が入っているのかがわかることだろう。

そして親友の死をきっかけに、バックパッカーとして世界を回るのだが、その数も60数カ国に及ぶ。北キプロスやシリアなどにも滞在し、またかなり過酷な体験もしており、若い女の子のバックパッカー日記みたいな本としても十分成り立つ内容だが、それは前半部のみで、記述もあっさりとしている。

それもそのはずで、後半、アフリカ各国での医療ボランティアと特にモザンビークでの活動こそが本書のメインで、それまでは前置きのようなものなのだ。後半の記述は、われわれの想像をはるかに超える重さがあり、また、彼女自身の行動の凄みが湛えられていて、読む者を圧倒する。

バックパッカーとしてアフリカにたどり着いた著者はエチオピアなど10カ国ほどで、HIVに感染してエイズを発症した人たちの施設などでボランティアをする。顔が崩れるほどの状態になった人をきれいにしてやり、詰まった汚物も手で取ってあげる。ハンセン病患者に対する聖書のエピソードやマザー・テレサを想起させるようなことを、彼女は日常の中でやってのけるのだが、その記述はまったく大げさではなく、まるで当たり前のことをするように淡々としていてそのことにも感銘を受けてしまう。

そしてモザンビーク。長い間の内戦の末、他人への不信感が募り、人々が毎日のようにレイプされ、殺される国。外国人への反感も強く、著者も何度も襲われかける。不正や詐取、賄賂の要求は日常的。黒魔術が信奉され、臓器目当てに子どもが誘拐され殺害される。

私は本を読むと、その地が紛争地や生活に過酷な地であっても、わりと安易に「行ってみたいなあ」と思ってしまうのだが、モザンビークだけは、読みながら「ここには行きたくない」と強く思ってしまった。そんなことは、外国に関するノンフィクションを読んで、はじめての経験だった。

他のアフリカ諸国が天国に思えるほど過酷な状況にあるモザンビークで、彼女はアシャンテママという支援組織を立ち上げる(今はモザンビークだけでなく、マラウィでの支援も行っている)。生活指導や教育指導、衛生指導などを行うのだが、指導を受けるとポイントをもらえ、ポイントを生活必需品と交換できるという非常に巧みな仕組みを作り上げ、特に近隣の母親たちがプログラムを支持し、一緒に活動をしてくれるようにもなる。さらに戸籍のない子どもたちの戸籍を取得し、教育を受けられるようにするなどの活動も行っている(その際の官庁との交渉にも感服してしまう)。

医療に関する援助も行っている。モザンビークでは医師でなくても「医療技術師」の資格を取ることで医療行為に携わることができる。その資格を取るために医療学校に入学、ここでも嫌がらせを受けたりしながらもついにはトップの成績で資格を取得した。入国時には現地の公用語、ポルトガル語が理解できなかったというにもかかわらずだ。

ただ、ひたすら「すげー!」と思いながら読んだ稀有な本だ。発売は2015年だが、とにかく読んでみてほしい。

なお、サイクロンと長雨の影響は著者が活動するモザンビーク北部にも及び、家が壊れたり、スタッフの家族が亡くなったりもしているという。活動を記したブログもぜひ見ていただきたい。

 

『渋谷ギャル店員 ひとりではじめたアフリカボランティア』金の星社/1300円