第18回 熱狂のインドへ(その1)

「海外取材の極意」については以前にも書いたが、今月のお題は「最も楽しかった海外出張」である。

アメリカはもちろん、イギリス、ドイツ、フランス、スイスといった欧州諸国、およびフィンランドや中国(香港、マカオを含む)、韓国などなど海外出張で訪れた国々は両手両足の指の数より多いだろう。

なかで、ひとつだけ最も楽しかった国を挙げろ。と問われれば、いささかの逡巡もあるけれど「インド」ではないかと思う。

2005年8月のことだ。5人の取材班が首都デリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイ、バンガロールに飛んだ。筆者が受け持ったのは、IT産業の一大集積地であるバンガロールである。

現地の空港に到着したばかりで驚いたことが3つあった。

その1、人が多い。多すぎる。空港は人、人、人。どこまでも人だ。筆者にもホテルからの出迎えが来るはずだったが、こんな人混みのなかで出会えるわけがない。とほとんど絶望した。

(ところが、ホテルの運転手はロビーに出るなり、5分もしないうちに筆者に声をかけてきたので、どういう工夫があるのだろうかと感心させられたものである。日本人が珍しかったのだろうか?)

人の多さは、2週間にわたるインド滞在で途切れることなく実感させられ、その驚きが薄れることもなかった。

その2、「インドの山奥で??」という主題歌が昔あったことを覚えている読者の方々は少なくないだろう。

そう、「レインボーマン」である。レインボーマンはインドの山奥で修行したので、頭にターバンを巻いていましたよね。

で、不勉強もいいところだけれど、インドではみんなターバン巻いてると思っていた。いや、ほんとに(笑)。

ところが、ターバン巻いてる人は、これだけ人がいるのに、ほとんど見当たらないのである。

そのわけは、ターバンはシーク教徒に特有のもので、シーク教徒はインドには2000万人余りしかいないのである。とりわけバンガロールには少ない。

ひとくちに「2000万人余り」といっても、全世界では3000万人の信者がいて、世界では5番目に多い宗教なんですけどね。

しかし、人口が14億人いるインドにあっては、8億3000万人の信者を有するヒンズー教が圧倒的多数で、シーク教徒はマイノリティなのである。

「ターバンがいねえじゃねえか!」

と最初は驚いたのだが、いなくて当たり前なのだった。レインボーマンはマイノリティだったのである。

ちなみに、インドには1億8000万人のイスラム教徒がいると言われる。これまたヒンズー教に比べれば少数派だが、世界で最もイスラム教人口が多いインドネシア(2億人)とそれほど変わりない。

おっそろしい国である。

その3、涼しい! 8月のインド、ってことで灼熱地獄を覚悟していた。

ところが、涼しいのだ。東京のほうがよほど暑い。たとえていえば、軽井沢に避暑に行ったようなもので、拍子抜けしてしまった。

バンガロールはデカン高原にあるので、夏でもさほど気温が上がらず、過ごしやすい土地なのである。

ま、日本にも北海道と沖縄があるくらいで、国土が何十倍も広いインドでは、これまた当たり前のことなんですがね。

「インド」って「暑い」という先入観があるので、やっぱり驚いてしまうのです。

バンガロール空港に着陸し、インドの大地に一歩を踏み出してからホテルにたどり着くまでのあいだに、これだけの驚きがある。

って、2週間滞在したら、どうなるんだ?

ワクワクが止まらなくなった。そして、その期待はまったく裏切られることはなく、毎日が驚きの連続だった。

今月はちょっと短めだけれど、いい切れ場になったので、いったん筆を擱くことにします。

インドについては本にできるくらい、いろいろ書きたいことがあるけれど、まずは3回くらいでまとめてみるつもり。

手抜き?

否定はしませんが、掛け値なしに面白いですよ、インド。来月も楽しみだ(笑)。