映画『プリズンサークル』が公開されたのは2020年1月のこと。それから約2年を経て、今年の3月に監督の坂上香自身の手による同名のノンフィクション本が出版された。

坂上監督は前作『ライファーズ』(2004年公開)で、アメリカの刑務所で、再犯率を著しく下げた更生プログラムと、そのプログラムの中で、受刑者のロールモデルとなったライファーズ(終身刑受刑者)を追ったが(そして8年後に同じテーマのノンフィクション本を上梓している)、『プリズンサークル』の舞台は日本の刑務所である。日本の刑務所といえば、世界的にも遅れていて、国際人権団体が常に危惧を表明している印象もあるが、本書で取り上げる「島根あさひ社会復帰促進センター」(名前に刑務所という文字はないが、れっきとした刑務所だ)そんな印象を覆す。職員が受刑者をさん付けで呼び、受刑者たちは表情豊かに対話をする。

法務省そのものに旧態依然とした組織だという印象を持っていた私は、まず、よくこんな刑務所が日本に生まれたなぁ、感嘆した。「島根あさひ」は官民混合型の刑務所で、落札した民間企業グループ「島根あさひ大林組・ALSOKグループ」の代表だった歌代正氏が、前掲の坂上監督の映画、『ライファーズ』を見て、影響を受け、アメリカに飛んで研修を受けるなどし、まったく新しい刑務所を作るために奮闘努力した結果なのである。つまりこの刑務所の誕生には、間接的に坂上監督自身が関わっていたとも言える。

理念が骨抜きにされ、本場とは似ても似つかぬものになってしまう、というのはよくあることだが、「島根あさひ」はそうならない。多数のステークホルダーを相手に、われわれの想像を絶するような奮闘努力があったのだろう。まずそのことに感服するのだ。

さて、そのようにしてできた日本の刑務所で「本物」のTCプログラム(TCはTherapeutic Communityの略で、コミュニティの力で回復と成長を促す「回復共同体」のこと)で何が起きているのか。著者は4人の「主人公」を通してわれわれに教えてくれる。

そこには刑務所が当たり前に強いてきた沈黙ではなく、対話がある。抑圧ではなく、寄り添いがある。

ぜひ併せて映画も見てほしい。映画だけでは伝わらないことが本書にはあり、本書だけでは伝わらないことが映画にはある。

『プリズンサークル』坂上香著 岩波書店