「聞く」ことと「聴く」ことの違いは何か。臨床心理士の東畑開人氏は、「聞く」は語られていることを言葉通りに受け止めること、「聴く」は語られていることの裏にある気持ちに触れること、と定義する。多くの人が、聞くことはみな当たり前にできることで、「聴く」ことはハイレベルで、またより相手に寄り添った「よい対応」だと思うのではないだろうか。しかし、著者は「聴く」より「聞く」のほうが難しく、現代社会のさまざまな亀裂は、むしろ聞くこと、つまり相手の言葉を言葉通りに聞けないことに起因することに気づいたという。さらに、人が誰かの話を「聞く」ことができないのは、その人が、自分の話を「聞いてもらう」ことをしてもらっていないからだ、というのだ。

一見ハウツー本のようなタイトルの東畑氏の新著『聞く技術、聞いてもらう技術』は、そんな問題意識をもとに書かれている。

そして実際、実用的でもある。「聞く技術 小手先編」および「聞いてもらう技術 小手先編」はそれぞれ20数ページに渡って「聞く/聞いてもらう」ための細やかかつユニークなハウツーが詰まっている。それに加えて、新聞連載された現代社会における「聞くこと」をめぐる「社会季評」と、それに関するより踏み込んだ「解説」が収められ、より深く「聞くこと」との意味を考えることができる、という構成だ。

小手先編の「実用マニュアル」も、面白く、また実践的だが、なんといってもこの本の読みどころは、「解説」の部分だろう。

互いに「聞いてもらえない」と感じるときは、互いの関係性に問題が生じており、それが双方に孤独を生む。関係が悪化すればするほど、「聞くこと」が重要になるのだが、孤独になると人は聞くことができない、と著者は書く。「聞くこと」と孤独との関係性を深掘りし、その一方で「聞いてもらうこと」と「人と人とのつながり」を論じる。

「聞く/聞いてもらう」ことのハウツーが、孤独論と友人論にまで深掘りされ、著者のていねいな思索にハッとさせられる一冊である。

『聞く技術 聞いてもらう技術』東畑開人著 ちくま新書