『牧野富太郎と、山』

4月から始まったNHKの朝ドラ「らんまん」の主人公槙野万太郎のモデルが、植物学者の牧野富太郎。ドラマで話題になるのを見越して、牧野富太郎に関する本が続々と出版されつつあるが、本書『牧野富太郎と、山』もそんなたぐいの一冊だ。

だが、版元が山と渓谷社だけあって、編纂する視点が面白い。牧野富太郎が山と植物にまつわるエッセイを、北海道、東北、関東、甲信越、近畿、中国、四国、九州と、北から順に並べて、収録しているのである。さらに、巻頭には簡単な地図があり、それぞれのエッセイの最後に牧野が登った山の簡単なデータもついている。つまり、エッセイを読んでその山に魅力を感じたら、自分も登ってみようと思えるような構成になっているのだ。

ドラマでも、とにかく植物に夢中で他のことには頓着しない天真爛漫な姿が描かれているが、本書に収録されたエッセイでも牧野の自由さや明るさ、そして天衣無縫の筆致を、その植物オタクっぷりと同時に味わえる。

高山植物を求めて高山に登ることもあり、本書にも白馬岳や信州駒ケ岳、立山などに関する記述もある。明治時代に汽車や馬車を何日もかけて乗り継ぎ、今とは比べ物にならないような貧しい装備で山に入ったはずだ。その過酷さに思い至ると、それでも飄々として楽しげな書きっぷりにいっそう感嘆してしまう。同時に、牧野が見た山上のお花畑、珍しい高山植物の群生は、今とは比べ物にならないほど壮観であっただろうことも想像し、羨ましくもなるのである。

もしNHKの朝ドラで彼の人柄や人生に心惹かれたら、ぜひ本書のエッセイを読み、さらにはこの本をガイドに、牧野が登った山々にも足を伸ばしてほしい。

『牧野富太郎と、山』(ヤマケイ文庫/900円)