『WILD QUEST ネイティブアメリカンのフルサバイバル術』 

20年ほど前、『トラッカー』という本が日本で発売された。著者はトム・ブラウン・ジュニア。幼い頃からアメリカ先住民のサバイバル技術を体得し、現在はアメリカで野外技術やサバイバル術を教えるトラッカースクールを主催している人物だ。先住民の老人が伝授された、生き物の痕跡を追う技術やサバイバル術、さらには著者自身のさまざまな経験が実に面白く、自分もこの技術を身につけたいと、読了後すぐにインターネットで検索をした。アメリカのトラッカースクールに行くには時間もお金もなく、日本でこの技術を学べないかと探して見つけたのが、今回紹介する本『WILD QUEST』の著者・川口拓氏のページだった。

それから20年を経て、川口氏はむしろ、空前のアウトドアブームのなか、JBS(ジャパン・ブッシュクラフト・スクール)の校長として有名で、何冊もの本を出版しているが、まさに本書こそが、彼の本質だろう。彼がトラッカースクールや自身の実践で得てきたウィルダネス(野生)に関する思想やテクニックが余すところなく紹介されていて、正直、「こんなに全部書いてしまっていいの?」と心配になるぐらいなのだ。

体温を保持できる緊急避難できるシェルターづくり、石器や紐作り、そして火起こし、そして野生の生き物の痕跡を追うトラッキングなど、アウトドアが楽しくなる技術が網羅的に紹介され、どれもがやってみたくなるものばかりだ。もちろん、実際に野外でやってみるととても楽しく、それだけで本書の価値があるだろう。

そのうえで付け加えるなら、子ども向けの野外教室を年に100日以上行っている私が、実は川口氏から教えてもらったもので一番役立っているのは、上記のようなテクニックではない。もっと根源的な感覚へのアプローチの部分、特に自然の繊細さを意識するベースラインという考え方と、自然のなかでの感覚を深く鋭くしていく「アウェアネス」のあり方だ。これがあったからこそいまだに大きな事故もなく子どもたちを守っていけているのだと思う。

この本では、そんな感覚や思想、自然を「全体として」捉える意識のあり方にまでこれまで以上に言及され、まさに川口氏の集大成と言えるような内容になっている。自然を愛する人、自然と触れ合いたいと思っている人にとって必携の書と言えるだろう。

『WILD QUEST ネイティブアメリカンのフルサバイバル術』 川口拓 著 誠文堂新光社