『BRAIN WORKOUT ブレイン・ワークアウト 人工知能(AI)と共存するための人間知性(HI)の鍛え方』

ChatGPT など生成AIの登場で、仕事や学びのあり方がドラスティックに変わろうとしている。そんな中、AIをどう使いこなすべきかといった内容のAI関連本が多数出版されているが、逆にAI時代にこそ、人はどうあるべきか、人にしかできないことは何なのか、といった視点の本も注目されている。『BRAIN WORKOUT』はそんな一冊。「人工知能(AI)と共存するための人間知性(HI)の鍛え方」と副題にあるが、人間の能力をAIに対比させてHIと呼び、人間の能力をHIのソフトウェアとしてAIと対比させることで、人間にしかできないことをわかりやすく解説し、その知をどう鍛錬していくのかを詳述した本なのだ。

著者によれば人間の脳、すなわちHIには6つのモードがあるという。
1つ目が運動モード。これは狩猟採集民だった動物としての人類の持つ知能、いわば人類のベースとなる知能である。
2つ目は睡眠モード。AIはエネルギーが供給されれば24時間同じように活動するが、人間にはON-OFFがある。そのOFFを担う睡眠モードは、運動モードと相互に補完し合いながら、人間の根源的な知能を支える。

そして3つ目と4つ目が瞑想モードと対話モード。人類は約7万年~3万年前に「言語の誕生」と「認知革命」によって脳のソフトウェアをアップデートし、他の類人猿たちとは違った道を進むことになる。複雑な言語のやり取りにより、想像力、抽象化能力、他者性、コミュニケーション能力などを得、また自身の心や精神世界に目を向けるようにもなったのだ。
5つ目は読書モードで、活字と印刷技術によって本が誕生し、人間の知が飛躍的に拡張された。
6つ目はデジタルモード。まさにわれわれが今経験していることだ。つまり主に1970年代以降、デジタル化、ネットワーク化、スマホ、AIとの協働により脳の知的生産能力が飛躍的に効率化されたのだ。

これらの能力はどれもが人間の知性=HIによって重要なもの。どのように向上させるべきかは、ぜひ本書を読んでほしい。AIとHIを対立軸として捉えたり、AIを否定するのではなく、人間の知性に欠かすことのできない運動や瞑想といった「人間ならではの力」を保ち、鍛えることで、人が主体的にAIと関わっていく指針が示されている。これからの仕事、学びに対して新しい視野が開かれていく本だ。

『BRAIN WORKOUT ブレイン・ワークアウト 人工知能(AI)と共存するための人間知性(HI)の鍛え方』安川新一郎著(KADOKAWA)