『遠くから見たら島だった』

やはりたまには書店をぶらぶらと歩くものだ、としみじみ思った。今回ご紹介する『遠くから見たら島だった』は、東京・立川のオリオン書房に面陳列されていた、なんとも地味な写真集で、どうやってもネット書店で出会える気がしない。

表紙は軍艦島を思わせるような、岩だらけの「島」のモノクローム写真ーーに見えるが、実は石を接写した写真である。本書はブルーノ・ムナーリが海岸で拾った石を撮影した写真集なのだ。ムナーリは、「イタリア未来派」に参画した際の「役に立たない機械」シリーズで有名な美術家だが、プロダクトデザインやグラフィックデザイン、そしてデザイン教育や子ども向けワークショップなど教育分野で注目すべき仕事を残している。

本書で撮影された石たちは、決して珍しい鉱物などではなく「ただの石」である。しかしそれらの石の造形は、ムナーリという美術家の視点で眺めたとたん、実に趣深くなる。また石に走る線を空や波に見立て、さらに絵を書き加えることで、ムナーリは石の模様をまったく別の世界に変化させてもいる。それらを見る私たちの視点も変わり、石の中からさまざまな世界が立ち現れてくるのだ

砂浜にあるそれぞれの石は「まれに見る『この世にたったひとつ』の作品」だが、多くの人はそれに気づかず日々を過ごしているとムナーリは言う。「ただの石ころ」の唯一無二の造形を、新たな視点でものを見て価値づけし、普段気づかないような別の世界を見出す姿勢は、彼の子ども向けの造形的ワークショップに通底するものでもある。すぐにでも子どもたちと一緒に海岸や河原で石を拾いに行きたくなる一冊だ。

『遠くから見たら島だった』ブルーノ・ムナーリ 関口英子訳(創元社)