第10回 棟梁になりきる

みなさんは、一年に何回くらい、屋外で食事をしますか?

数えたことありませんが、私は多分50回以上庭のテーブルでごはんを食べています。

フランス人は屋外ごはん大好きです。お天気の良い日は庭先はもちろん、マンションの狭いバルコニーにもテーブルを出して食事しています。

フランスの冬は長くて暗く、人々は夏を心待ちにします。貴重な太陽を目一杯浴びるために屋外で食事するのです。

私が日本でも庭でごはんを食べる理由は、単純にそちらの方が美味しいし楽しいから。

たとえメニューが昨日の残りのカレーでもカップラーメンでも、2割増しに美味しく感じます。

暑い夏は、蚊取り線香をいくつも焚いて、蚊と戦いながらBBQ、真冬の朝は白い息をはきながら温かいカフェオレ飲みます。

でも、雨だけはどうにもなりません。
雨にも風にも負けない丈夫な屋根を作って、天気に関係なく庭で過ごせたらどんなに楽しいでしょう。

屋根作りの計画を近所の人に話すと、みなさん口を揃えて
「ここは風が強いからやめておけ」
と言います。

実は、以前台風で自分の作った壁が倒壊したことがあり、近所でちょっとした話題になったことがありました。

今回の屋根作りで、一番重要なのは丈夫さ。竜巻にも負けない、頑丈な屋根を作ってリベンジしたい。

壁を作ったときは、三浦の気候をあまり考えず、デザイン先行で失敗しました。
では、どうやったら強い屋根が作れるでしょう?

建築を本格的に勉強したことが無いので悩みますが、出した答えはシンプルに「昔ながらのやり方」を真似ることです。

昔の人に習い、太い柱と太い梁を組み合わせて、釘を使わない日本式工法に初挑戦です!

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一番の難関は、重機を使わず梁を一人で持ち上げなければならないこと。
ロープを使って少しずつ持ち上げていきます。

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梁の重さは100キロ。
過って落として下敷きにでもなれば大惨事です。
いつもは庭先で好きに遊ぶ飼い犬のムクも、この作業の時だけは近くに来て神妙な顔で見守っています。

雑種ですが意外に頭が良く(ずる賢く?)フランス語と日本語を理解するバイリンガル犬(多分)のムクにも

「見てるだけじゃなくて一緒にロープを引っ張ってくれー」という心の叫びは届かないようです。

乳酸マックスでプルプルと震えた腕で梁と柱を合体させた時の気分はまるで宮大工の棟梁!

昔の人は手作業でもっと大きな仕事をしていたのだから、本当に尊敬します。

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他にこだわったのは天井です。
日本の古い建築を見ると天井が美しくて見とれてしまうことが多いのですが、最近の建物は残念ながら天井が手抜きされていることが多いのです。

テーブルに座って見上げた時、天井に配線が見えたらガッカリなので、細かい部分にこそ気を使って仕上げました。

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屋根が完成してから、強力な台風が何回かやって来ましたが頑丈な柱のおかげでびくともしません。

日差しを程良くカットして、食事の時間も快適に過ごせるようになりました。

屋根作りの苦労を知ってか知らずか、この場所を一番気に入っているのはムクかもしれません。

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