第13回 プチリフォームのススメ ~魔法のペンキ~
ペンキ仕事は私の苦手分野でした。
理由は単調な作業が延々と続いて面白くないから。だから家の外壁のペンキ工事は迷わず業者さんにお願いしました。
家族と近所の人ほとんど全員になぜ自力でやらないのか聞かれましたが、足場を組む必要があるし、ボリュームがありすぎます。
年々、私へのDIY期待値が上がってきている気がします(笑)
奥さんは
「台北では竹で足場を組んていたからできるんじゃない?」と無茶ぶりもいいところです。
私の本業を、みんな忘れているんじゃないかな?
知り合いに紹介してもらったペンキ屋さんの評判は、とにかく仕事が丁寧でペンキが長持ちする、とのこと。
他人にお金を払って工事を依頼する機会はほとんどないので、素直にクチコミを信じることにしました。
工事が始まって1週間過ぎても、ペンキ屋さんはまだペンキを塗る気配がありません。毎日、外壁の洗浄と補修に時間を費やしているのです。
プロの仕事で完璧に準備が施され、綺麗に塗られたペンキはもちろん満足の出来映えです。どんな工事も下準備、下地の美しさが大事ってことですね。勉強になりました。
すっかりプロの仕事に触発された私は、10年以上前に買ったリビングのサイドボードが部屋の雰囲気に合わなくなってきたので思い切って色を塗ってみることにしました。
フランスに里帰りした時に買っておいた、“家具に経年変化を与える塗料”を使用します。
元々茶色いサイドボードを、まずは塗料1でグレーに。それが乾いたら、アイボリー色の塗料2を塗り重ねます。最後に塗料3、これは薄い茶色をした液体です。3は全体に塗らずにサイドボードの角や溝の部分のみにスポンジで塗っていきます。2色を塗り重ねることで立体感を出し、塗料3で黄ばんだ感じを加えて、スポンジで擦れや剥げを表現するのです。
最近は、アンティーク風、ヴィンテージ風が流行っていてわざと古ぼけさせたり擦れたり剥げている塗装の家具も簡単に買えますが、「家具を古く見せる加工」は意外と奥が深く面白いです。
DIYで家具をアンティーク風にするコツは「歴史を刻む」ことです。
家具が本物のアンティークになるには100年かかる訳です。
ただヤスリでこすったり、ヴィンテージ風になる塗料を使っても、安っぽく汚なくなるだけで、本物の年月にかなうはずもありません。
例えば、サロンに置いてあるサイドボードなら、赤ちゃんがつかまり立ちしたかもしれないし、引き出しは数え切れないほど明け閉めされたことでしょう。床に触れている部分はスリッパがぶつかって塗装が剥げているはずです。赤ちゃんもやがておばあちゃんになって、サイドボードに手をついて歩くことで、手の脂がついて家具に艶が出るかも知れません。
そんな歴史を妄想しながら、塗装の剥げて来る位置、黄ばみ具合、傷が入る場所、日焼けなどをよく考えて絵を描くように仕上げていく作業は至福の時間です。
忙しい毎日、貧乏性の私はDIYをする時でさえ、能率やスピードを考えてしまいます。
たまには魔法のペンキで時間を巻き戻すのも悪くないものです。