第24回 週刊誌の「禁忌」(タブー)

過日、「鉄道弘済会」主催の落語会に出かけてきた。1000人近い大ホールがほぼ満席の大盛況である。

金原亭馬生、柳家喬太郎という人気者が登場して、木戸銭はたった500円。もちろん、鉄道弘済会が出演料を補充しているわけで、さすが太っ腹と感心させられたものだ。

鉄道弘済会は不動産管理を含めて様々な事業を営んでいるが、週刊誌編集部にとって切っても切れなかったのが、雑誌の「取次」としての顔である。

取次というのは、ひと言で言えば「問屋」ですね。駅売店(キオスク)に並ぶ雑誌の類は、かつてはすべて鉄道弘済会が一括して仕入れしていた経緯がある。

キオスクは、一昔前までは書店に次ぐ雑誌販売の大きな柱であり、その意味でJR批判は出版社にとって「禁忌(タブー)」のひとつでもあった。

週刊文春が松崎明(旧国鉄の労働組合、動労委員長)批判のキャンペーンを展開した時、キオスクから一斉に雑誌が撤去されたことは、いまだ記憶に新しい。

まぎれもない言論の弾圧であり、出版社としてはこれに徹底的に抵抗しなければならないのだが、キオスクで雑誌が売れないとなると、おまんまの食い上げである。

あの週刊文春も最後には折れて、記事の一部に関して謝罪広告を出したほどだ。

そういうわけで、今回は鉄道弘済会のほかにもいくつかある週刊誌の「タブー」について触れてみたい。

すぐに思いつくのが「セブンイレブン」かな。かつてのキオスクほどではないものの、コンビニもまた週刊誌の重要な販売チャネルなので、できるだけ刺激したくない。

セブンイレブンの批判記事を出して、店頭販売をストップされた例をいくつか知っている。

最後に「国家権力」だ。なかんずく、警察と国税がヤバい。執念深いし、後々まで報復の機会を狙ってくる。

詳細は省くが、あるネタについて「国税は大馬鹿だ」という趣旨の記事を書いたことがあった。その半年後、勤めていた出版社に国税の査察が入ったのだから、偶然の一致にしては話が出来すぎている。

それまで査察に入られたことなどなかったというから、明らかに「報復」だったのだろうと今でも思っているし、国家権力は怖いなと痛感させられたものだ。

鉄道弘済会、セブンイレブンに関しては、それぞれ書きたいことも山ほどあるが、筆が止まらなくなるからやめておこう(笑)。

ひとつだけ言えるのは、鉄道弘済会もセブンイレブンも、今やタブーではなくなっているということだ。

なぜか。雑誌がまったく売れなくなっているのである。

キオスクでは雑誌販売がピーク時の10分の1にまで落ち込み、昨年には鉄道弘済会は取次業務からの撤退に追い込まれた(現在、トーハンがキオスクの取次を引き継いでいる)。

セブンイレブンも同様で、コンビニ大手は「成人向け雑誌」販売中止に踏み切った。

いまさら言うまでもないことだが、電車の中を見渡せば、理由は一目瞭然だろう。

昔のように、新聞や雑誌を広げて読んでいるひとは、ほとんど見当たらない。みんな携帯電話の画面に見入ったり、ピコピコとメールを打っていたりする。

さすがに電車の中で堂々と成人向け雑誌を開くツワモノはいないだろうけれど、ケータイでこっそりポルノを見ていたりするヤカラはいるかもしれない。

エロ本などは、わざわざ恥ずかしい思いをしてコンビニで買わなくても、タダでネットに転がっている。そんな時代だ。

そもそも雑誌が売れないのだから、週刊誌にとってはタブーになりようがないのである。

これは余談だが、日刊ゲンダイや夕刊フジがいまだ廃刊にならないのは、実に不思議なことだと思う。夕刊紙を読んでいるオジサンなんて、今時いないものね。

今も昔も変わらないのは、とどのつまり国家権力である。

販売中止ならともかく、下手を打てば廃刊に追い込まれかねない。

警察や国税、及び自衛隊の内情については、個人的にも興味があるし取材もしてみたいが、なかなか深掘りできない背景には、そんなタブーが横たわっている。

最近、関西電力の会長、社長を含む幹部の金品受領が話題になっているが、あれもなかなか怖い話だ。

某国会議員の秘書と話していて、永田町も絡む裏事情の一端を知ったのだが、「(記事にしたら)死ぬよ」と真顔で言われた。

くわばらくわばら。

落語じゃないが、この話には「オチ」がある。

落語会のチラシを改めて見ていたら、主催が「鉄道弘済会」ではなく「東京都弘済会」だったという(笑)。

そりゃあ、そうだ。ちょっと考えてみれば、現在の鉄道弘済会がそんなに太っ腹であるはずがない。

落語の聴き過ぎで脳みそが溶けかかっているのかもしれないな。何事も健康のためには「ほどほど」がよろしいようで。了