第27回 新ビル建設計画を真っ先に嗅ぎつける「TOTO」の魔力(?)

せわしない年の瀬、その昔に勤めていた会社を通りかかる機会があったので、ちょいと立ち寄ってみた。

もっとも、会社そのものは、もうそこにはない。1990年代末に自社ビルを売り払って、跡地には立派な「超高層ビル」が建っている(現在のビルについてウィキペディアで検索したら、実際に「超高層ビル」と書かれていて、ちょっと笑ってしまった)。

てっぺんの20階から眺める景色は、同じ場所からなのに、ずいぶんと違ったものに映った。天気がよければ、富士山も拝めそうだ。

その昔は、確か10階建てだったと思う。立派な「違法建築」だった(笑)。容積率との兼ね合いで、本来なら9階までしか建てられないので、エレベーターの表示では10階が「R」(屋上)になっていた。

バブル経済華やかなりし頃には、大手ゼネコンから「自社ビル建て替え」の提案がよく持ち込まれたものだ。

地価がうなぎのぼりだったので、「超高層ビル」に建て替えたほうが資産価値も上がるし、借金だってすぐに返せます。とゼネコン担当者はささやいた。

うっかり話に乗っていたら、バブル崩壊でえらい目にあったに違いない。今ごろは借金で潰れていただろう。

当時の経営者の慧眼を称えたいところではあるが、実情はいささか異なる。再開発したくても手が出せなかったのだ。

いささか説明がややこしくなるが、ビルの敷地を真上から見ると、「四角形」になっていない。左上の一角が別の会社の土地になので、「虫食い」になっている。

この土地を取得しないと、「超高層ビル」が建たないのだ。

何度も「売ってくれ」と掛け合ったが、頑として拒絶されたらしい。右肩上がりで地価が上昇していたから、おそらく「売り惜しみ」したんでしょうな。

再開発プロジェクトは、結局お蔵入りとなり、程なくしてバブルも潰れた。

と、ここまでがイントロで、今回はここからが本論である。

こういう再開発案件は、山のようにあったはずだ。そして、「お蔵入り」しているということは、公式にはどこにも明らかにされていないということである。

ところが、非公開のはずの新ビル建設計画を真っ先に嗅ぎつける業界がある。どこだと思いますか?

三井不動産、森ビルといった不動産会社ではなく、銀行でもない。「TOTO」なんですね。住宅設備業界。

まぁ、ビルを建てれば、トイレは必ず要るからね。その意味で、不思議はないといえばない。

しかし、筆者が勤めていた会社では、社員でさえ再開発プロジェクトについて知らない者が大多数だったのだ。そんな案件をどうやって見つけてくるのだろうか。

独特のノウハウ、ルートがあるのだと思う。

話はまたまた脱線するが、都心再開発の先駆けとなったのは、森ビルの「アークヒルズ」である。

計画から地権者調整、竣工まで20年近くかかったというから、大したものなのだ。

とりわけ何千とある地権者調整(わかりやすく言えば「地上げ」)は一筋縄ではいかない。

森ビルの社員が地上げ対象となる一角に引っ越し、町内会の内側から切り崩しをかけるという周到な働きかけが必要となる。

昔の「草の者」(今で言う「スパイ」ですな)は、親子2代かけて何十年も敵地に潜んで情報収集したという。

そんなエピソードが日本にも中国にも残されているが、現代の森ビルはそれを地で行くわけだ。

まさしくノウハウであり、TOTOにも定めしこういう「秘術」があるに違いない。

「取材すると面白いだろうなぁ」と思ったのが30年前。昔の職場と同じ場所に建った超高層ビルの20階に立ちながら、ふとそんな記憶が蘇ってきた次第だ。

悪いクセなのだが、とどのつまり思っただけで、取材はしなかった。

どうやって、見つけるんでしょうかねぇ。

というわけで、とりとめのない思い出を書き連ねてしまったけれど、考えてみれば毎回「とりとめのない思い出」なので、ずっとこの調子で続きます。

読者の皆さまには今年も変わらぬお付き合いを賜りたく。よろしくお願い申し上げます。