第31回 ネクタイとICレコーダー、それにZOOM

「十年一昔」というくらいで、週刊誌の記者をやめて10年もたつと、「世の中変わったなぁ」と思うことがいくつもある。

たとえば、「ネクタイ」だ。あたしが現役だったころは、率先して「クールビズ」(2005年から始まった)を推進すべき政官財界のおえらいさんが、真夏でもきちっとネクタイ締めてたものです。

ここんところ、そういうおえらいさんに会いに行くと、全員が全員ノーネクタイ。「この暑いのに、なんでネクタイしてんの?」と訊かれたりする。

どうでもいいけど、10年前には「ノーネクタイだと気合が入らない」とかおっしゃっていた方々だ。そんなふうに訊かれるのは、いささか心外でもある。

もうひとつは、インタビューや取材の「録音」だ。

最近、若い記者と連れ立って取材に行く機会が何度かあったのだが、みんながみんな録音していますね。「録音させてもらいます」と断わりもしないで、黙ってICレコーダーを机の上に置く記者すらいる。

あたしが現役だったころは(どうも、この言い方は好きにはなれないのだが)、よほどのことがない限り録音などはしなかった。

理由は2つあって、まず第一にICレコーダーを前にすると、取材対象者はほぼ確実に言葉を選ぶ。程度の差はあっても「録音されている」という警戒感が生じるので、いわゆる「素」が出てこない。

次に、インタビューしているこちらがおろそかになる。録音している、後で内容を確認できるという安心感があると、言葉のやり取りに集中できなくなるのだ(もっとも、これは個人的なものかもしれないが)。

しかしながら、録音はやはり便利なものだとは思う。ICレコーダーの小型化・高音質化が進み、「テープ起こし」の料金も格段に安くなった。当方もすっかり録音派に転身してしまい、ずいぶんと堕落したものだと内心では苦笑を禁じえない。

さて、世の中はコロナ騒動で、取材活動も大幅に制限されている。対面取材を受けるのは政治家、官僚くらいのもので、財界人はほとんど出社すらしていない状況だ。

(余談だが、感染拡大を先頭に立って阻止しなければならない政治家、官僚が、緊急事態宣言が発動された後も対面取材を受けているのは、いかがなものでしょうかね。永田町、霞ヶ関でコロナ感染のニュースがよく流れるけれど、あたり前田のクラッカーだと思う)

取材する側も、対面取材は極力自粛しており、どうしても出かけなければならない場合はタクシーを使うとか、2人以上で訪問しないとか、いろいろ自衛策を講じている。

そうなると、録音はさらに便利だ。

昔のガラケーにあった通話録音機能が今のiPhoneにはないので、「ESONIC」という録音機を何年か前に買った。

そのころやっていた仕事(「物書き」の仕事ではない)で、「言った言わない」のトラブルが予想されたので、念のため用意しておいたものだ。そのとき使わずに済んだものが、ここ1ヶ月でずいぶん役に立っている。

取材相手もZOOMやハングアウトを使うようになっており、昔で言うところの「テレビ会議」方式で取材をする機会も増えた。

すでにそういう機能があるのか知らないが、相手にわからないように録画することもできるようになるかもしれない。

ポストコロナで働き方が変わるということは、すでによく言われている。テレワークでできる仕事を、わざわざ会社に出ていってすることはない。

となると、都心の一等地に本社を構える意味もなくなっていくから、オフィス需要にも影響する。的なお話である。

取材活動も大きく変わるでしょうね。だって、ZOOMやハングアウトでできるんだもん。わざわざ日時を調整して応接室で会って、という手間がかからない。

これまでのところは、ZOOMやハングアウトによる取材は「失礼」「非公式」というイメージが双方にあったし、そもそもVIPがそういう便利なものを使いこなすことができなかった。

今、必要に迫られてみなさん使えるようになっている。あたしより詳しい会長さん、社長さんも少なくないし、そういうおえらいさんはコロナ収束後も使い続けると思うんですよ。「便利だ、便利だ」っていたく感心してますから(笑)

取材ですらそうなっているので、当たり前のことながら社内の打ち合わせ・会議のあり方も変わっていく。

今、いっしょに仕事をしている会社の方々とは、こんな時期だから打ち合わせ・会議はすべてZOOMかハングアウトだ。

それが不思議なんですけどね(不思議じゃないのかもしれないけど)、ビデオをオフにして音声のみで参加する方々が少なくないんだなぁ、特に女性。

マンツーマンの打ち合わせで、向こうがビデオをオフにする。相手には画像・音声とも伝わっているわけだが、こっちには音声しか聞こえないわけだ。

音声だけで特に不便はないのだけれど、ふと思ったりするのである。こちらもビデオをオフにすると、「電話」で喋っているのと同じではないかと(笑)

なんだかねえ、ZOOMやハングアウトが便利だってことは分かるんですが、じゃあ電話と何ほどの違いがあるのか。って気もしないでもない。

だから、先方からZOOM、ハングアウトの指定があれば応じますが、たいていは電話で用事を済ませちゃいますね、いまだに。

蛇足を連ねれば、ここ1~2週間「コロナ、大丈夫?」という問い合わせがずいぶん増えた。もう何年も会っていない知り合いからいきなり電話、LINEで連絡があるので、こちらも面食らってしまう。

訊けば、「罹ってそうだから」とみんながみんな判を押したように言う。罹ってたらどうなんだと言い返したくなるが、まあ、みんなヒマだし、怖いもの見たさというか面白半分みたいなところがあるんでしょう(笑)。

閑話休題。

何をもって、「コロナ収束」というのか。人口の7割がゆっくりと感染するか(集団免疫)、ワクチンが開発されるか。のどちらかしかないわけです。

どちらにしても1~2年はかかりそうなので、個人的には来年のオリンピック開催も危ないとにらんでいるのですが、いずれにせよ長期戦は覚悟しなければならないでしょう。

読者のみなさまには、くれぐれもご自愛ください。

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