第33回 アフターコロナの「会食」をつらつら考えてみる

コロナ騒動の前後で、最も変わったことといえば、私的には「会食」がなくなったことだろう。言うまでもないことだが、「減った」のではない。「なくなった」のである。

おかげで、ずいぶん生活が楽になった。大企業のトップ、役員クラスとの会食ともなれば、1回で4~5万円は飛んでいく。月20~30万円はかかっていたものがゼロになったのだから、正直言って助かっている。

余談だが、もうひとつ「なくなった」ものがある。落語会などのイベントだ。チケットが軒並み払い戻しになったおかげで、これまたずいぶん助かった。裏を返せば、月々にかかっているチケット代がはっきりと認識されて、恐れ呆れている今日この頃でもある。

話を戻せば、会食は取材源との関係を維持していく上で必要不可欠だ。そろそろ復活してもらわないと困る。

しかしながら、緊急事態宣言は解除されたものの、会食が再開されるまでには、まだまだ時間がかかりそうな雲行きだ。

それどころか、「会食文化」とでも言うべきものが、コロナをきっかけにして消滅してしまう可能性すらある。

知り合いの大企業会長と(もちろん、携帯電話で)話したところによれば、高校時代の同級生とオンライン飲み会を始めたそうな。

毎週水曜日の19時と決めて、パソコンの前に座る。酒とつまみをやりながら、ZOOMで駄弁るのだという。

そろそろ70歳の声を聞こうという、オジサンである。まさかに、こんな時代が来るとは思いませんでしたね。

今はまだ非常時だが、オンライン取材、オンライン飲み会に慣れてしまうと、「ZOOMでいいんじゃないの?」っていうのがニューノーマルになるような気がしてならない。

それで取材先との関係が維持できるとなれば、「これまで使ってきた何千万円という取材費は何だったんだ?」ということになる。なんだか自殺したくなりますね(苦笑)

その昔、後輩記者に聞かれたことがある。

「会社の社長と会食してる時って、どんな話をしているんですか?」

あくまで個人的な意見であり、一般的なアドバイスとは言えないかもしれないが、「”取材”をするな」と答えたものだ。

酒を呑みながら、取材なんぞ受けたいはずがない。というのは、立場を入れ替えてみれば、容易にわかることである。

仕事の話なら、相手のほうがよく知っている。したがって、酒席では相手が知らない話をするのである。興味を惹きそうなネタなら、なんでもよろしい。趣味の話でもいい。

そういうヒマネタを振っておいて、相手からは「個人情報」をそれとなく引き出す。出身地、出身校、交友関係などなど。「それとなく」が重要で、これを畳み掛けるように聞くと、仕事の話以上に嫌がられる(笑)

ヒマネタ→個人情報→ヒマネタ→個人情報みたいなパターンで、盃を重ねていく。そのうち、ひょんなことから、それこそ「記事ネタ」が飛び出してくることがある。

1日にいくつというものではない。何回にいくつという頻度だが、酒席で明かされるのは、平場(会社の応接室)では決して入手できない「特ダネ」であることが多いので、これが醍醐味なのですね。

さらに、個人情報の蓄積も大きい。出身地、出身校、交友関係などを聞いておけば、不思議にいろんな人につながるものである。それが、人脈の輪を広げていく上で大きな武器となる。

で、よくよく考えてみれば、オンライン取材やオンライン飲み会がニューノーマルになるにしても、筆者流の会食が不要になることは、ちょっと考えられない。だって、ZOOMでヒマネタは振れないもん。

だが、相手が必要を認めなければ、こっちがお願いしても無理筋だ。これからどうなるのか、気になるところである。

それにしても、接待に使われる高級店も大変ですな。ラーメン屋とかファストフードと違って、しばらく客足は戻らないだろう。

元赤坂の名店「辻留」が、6月末まで「ご飯セット」のテイクアウトをやっていて、これには驚かされたものだ。あの、辻留が。という感じである。しかし、ニューノーマルの世界では、これが当たり前になっていくのかもしれない。

20代の頃、会食相手といえば「祖父」「父親」の世代だった。今は「兄貴」の世代になっている。第一生命や野村ホールディングスなど、兄貴どころか同級生世代のトップもそろそろ登場してきた。

昔から「年上」を相手にしてきたので、本音を言えば同級生、後輩世代と付き合うのが苦手である。

しかし、そんなことは言ってはいられない。「祖父」「父親」が「兄貴」に変わり、そろそろ同級生になろうという状況にあって、ゆくゆくは弟、さらには「息子」と付き合わなければならない時代が来る。

「祖父」「父親」から「兄貴」への世代交代、人脈継承については、これまでのところはなんとかやってきたが、そろそろ行き止まりになりつつある。

この商売、人脈さえあれば死ぬまで続けられるのはいいけれど、はてさてどうしたものですかね。

常日頃はのんべんだらり、世の中ついでに生きている筆者だが、さすがにコロナのおかげで最近はいろいろと考えさせられる。

梅雨時のせいか、いささか湿っぽい話になってしまったので、次回はパーッと景気のいい思い出を書いてみたい。