安倍晋三総理が辞任を表明した。記者会見を開いたのが、8月28日。そのちょうど1週間前から辞任観測が浮上しており、ひそかに取材に追われていたものである。

安倍総理といえば、忘れられないエピソードがひとつある。

ロシアにおいて(モスクワだかサンクトペテルブルクだか記憶が曖昧だが、とにかくロシアにおいてである)、プーチンとワーキングランチになった。

ワーキングランチというくらいだから、食事中も雑談などしない。重要事項について、お互いの腹を探り合い、落とし所を見出していかねばならないから、ナイフやらフォークを動かしている余裕などないのだ。

給仕もそこは心得たもので、料理に箸がついていなくても(ロシアに箸はないか)、お皿を下げてしまう。

さて、ここだ。ロシア産のキャビアが供された。これがたいそう美味かったらしい。片付けようとした給仕に対して、さっとキャビアに手をかざし、持っていかれないようにしたというのである。プーチンと熱心に話しながら、給仕には一顧だにすることなく。

もちろん、総理本人から聞いた話ではないが、数ある安倍エピソードの中でも、これがいちばん好きだ。どうでもいい話ではあるけれど、なんだか人間的じゃないですか。美味しいもの好きなんだなぁ、って思っちゃうよね。

長らく経済誌の記者をやってきたが(今でもそれらしきことはやっている)、財界だけを取材するものではない。政界もまた重要な担当分野である。

政権運営次第で、景気の振り子が大きく振れますからね。民主党政権時代を思い出してほしい。為替は1ドル=70円台のスーパー円高になり、日経平均株価は7000円を割り込んだ。日本経済はショック死寸前の窮地に追い込まれたものだ。

ちなみに、現時点では為替は1ドル=105円前後、日経平均株価は2万3000円台に持ち直している。政権交代で誰が首相をやっても、民主党時代のディスカウントは修正されたはずだという意見もあるが、やはりアベノミクスの成果というものはあったわけですよ。

歴代最長の安定政権ならではの岩盤規制改革に取り組んで欲しかったという注文はあるが、筆者個人は概ね評価はしているし、妙な共感もある。

妙な共感というのは、これまた食事に関係することだ。「首相官邸の1日」を新聞で読んでいると、コロナ以前には総理は毎日のように誰かと酒食を共にしている。

「だれと、どこで」食事したのかも書かれているのだが、これがなぜかしら筆者の行きつけの店と重なるのである。自分がお店を選んでいるような錯覚を覚えるほど、知った名前が続々と登場するのだ。

そんなもんだから、首相が訪れたあとに、当のお店に立ち寄ると(正確に言えば、予約もろくろく取れない店が多いので、「立ち寄る」などという気軽なものでもないのだが)、食事中の総理一行の会話は一切教えてくれないが(さすがである。だから選ばれるのだろう)、ちょっとしたこぼれ話を聞くことはできる。キャビアみたいな(笑)。

閑話休題。

与野党を問わず、政治家ともよく会食したものだ(ちなみに、安倍さんとは一度もない)。

何十人となく飯を食っていて、気づいたことが1つある。みなさん、「すっぽん」がお好きなんですよねえ。

どういうわけか、と書きたいところだが、「わけ」など決まっている。精力増進である。すっぽんが効くという話は誰でも知っていると思うが、永田町における「すっぽん神話」は世間一般以上に根強いようだ。

それなりにお年を召された方が多いので、バイアグラなんかは気恥ずかしいこともあるのだろう。一にすっぽん、二にすっぽん、三四がなくて五にすっぽんである。老いてなお盛んでありまして、お座敷の会話は自然に艶っぽいものになっていく。

赤坂に「さくま」というすっぽん屋があって、ここにはよく通ったものだ(正確を期すれば、通わされたものだ)。

あと、六本木には「富綱」というすっぽん屋もあって、当時懇意にしていた財界人に何度も呼ばれた。女将は、あの富司純子のお姉さんである。

富綱はそこそこのお値段だったが、さくまは2人でお勘定15万円という店だ。しかしながら、財界人とか官僚と違って、政治家はよくおごってくれるのである。相手がみんな親父みたいな年だということもあって、こちらもご厚意に甘えることがしばしばだった。

もっとも、本音を言えば、すっぽんはそれほどの好物ではない(京都「大市」のすっぽんなら、月1度くらいは行きたいけれど)。同じ精力増進なら、うなぎがいいなぁと思う。うなぎは大好きである。どうでもいいか(笑)

うなぎとかステーキとか、とにかくなんでもあると思う。繰り返しになるが、バイアグラでもいいじゃないですか。でも、すっぽんなのである。永田町では。寿司が喰いたいなどと口走れば、殴られかねない(嘘です)。

政治家と会食で思い出したが、「料亭」は切っても切れないものでしたけどねえ。永田町では。料亭政治なんて言葉があるくらいで。

もっとも、政治家が料亭を使うのは、政治家同士の密談であることが多く、(政治家に)お呼ばれされたことは一度もない。

その政治家同士の密談にも、ここのところまるで使われなくなっている様子だ。小泉純一郎までは、「首相官邸の1日」に赤坂の料亭の名前がちらほら出ていたが、安倍総理になってからは皆無となってしまった。

今、新総裁選の真っ只中である。かつてなら、料亭はフル稼働だろう。敵対派閥が入り乱れて出たり入ったりするので、仲居さんが玄関でぶつからないように配慮したり。それでも、厠でばったり出くわしたり。そんな光景は、もう見られない。

世代交代ということなのだろうか。かつて、赤坂には芸者が呼べる料亭が20も30もあったという。今、2つか3つしか残っていないそうな。

興が乗ってきたので、赤坂、向島あたりの「お座敷遊び」について書き連ねようとも思ったが、これをやると「2回分」になってしまう。

続きをおたのしみに(笑)