第51回 娘の就職活動で思い出した、出版社の新卒採用あれやこれや

読者の皆様には、2022年もよろしくお願い申し上げます。

新年早々から身内の話で恐縮だが、この春には娘が就職する。大学3年生の時点で内定が出たというから、ずいぶんと早くなったものだ。いろいろ話を聞いていると、就職活動の中身もガラリと変わっているようでもある。

そこで今回は、週刊誌記者時代に関わった新卒採用について、徒然なるままに書いてみたい。

出版社の選考プロセスは、おおよそどこも似たようなもので、まず作文を含む筆記試験がある。それから管理職による面接(1~2回)、役員面接を経て内定を出す。

筆者は、出版社ばかり20社近くも受験して、内定をもらったのは2社しかなかった。うち経済誌・ビジネス書の老舗に入ったわけだが、これが今でも不思議でならない。

というのも、筆記試験の「経済・ビジネス関連の時事問題」はほぼ0点。新聞なんぞは読んでいないのだから、まるで解けない。

面接ではオール英語で聞いてくる試験官がいて、「あなたの故郷について、英語で説明してください」とのたまう。「立山」を「タテヤマ」とやったら、「マウント・タテ?」と返された。

学生同士のグループ・ディスカッションもあって、あれで8人くらいいただろうか。こちらは日本語なのだが、議論の内容がバカバカしくて参加する気にもなれない。その直後の面接で「一言も喋らなかったね。どうして?」と聞かれ、まさかバカバカしいとも言えないので、「内気なんです」と答えておいた。

いったいぜんたい、どこが評価されたのか。いまだにサッパリ分からない(笑)。

こちらが採用面接をする側になってから、「僕の(私の)どこがよかったんでしょうか?」と新入社員に聞かれることは、たまにあった。きっと、筆者と同じように、自分が採用されたことについて不思議に思う向きもあったのだろう。

個人的に最も重視していたのは、「読書体験」である。「月に何冊くらい本を読みますか?」とは必ず聞いた。ここで、しばらく間があくようなら、かなりの確率でその学生は答えを「つくっている」。続けて、「最近読んだ本でいちばん面白かったのは?」とか一寸突っ込むだけで、かわいそうになるくらいボロが出る。

読書体験について聞けば、学生の知的水準はたいがい分かる。新聞記事に出ているような「一般常識」に強く、筆記試験で高得点を取る学生が「知的水準が高い」とは言い切れないのだ。読書で得られる素養、知識は「付け焼き刃」では身につかないところが強い。

出版社の筆記試験に関しては、「作文」は必須科目である。作文を書かせない出版社は、まずないと言っていいし、一般企業に比べて重視されてもいる。しかし、読書体験が分かれば、書いたものを見なくてもおおよその推察はつくものだ。良質な本を数多く読んできた学生にしっかりした文章が書けない道理はない。

週刊誌の記事というのは、ある程度までは「テンプレート」でできてしまう。テンプレートの最たるものは、新聞記者なら「5W1H」、すなわち、「いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どのようにしたか」であり、雑誌記者なら「起承転結」であろう。

これさえしっかりしていれば、文章力はそれほど問われない。経済雑誌の記事が、村上春樹のような文章で書かれていても、読者が困るのである(笑)。そして、テンプレートは経験で自然に身につくものなので、その限りにおいて読書体験をそれほど重視する必要はないとも言える。

しかし、読書体験で得られるものは、ただ文章力だけではない。書くべきテーマを設定するセンス、膨大な資料・取材ノートを適切に要約し再構成する能力こそがキモなのである。こうしたセンス、能力は、「オン・ザ・ジョブ」ではなかなか身につかない。短期間でできるようになる記者もいれば、いつまでたってもできない記者もいる。たいていはそのどちらかであり、いつまでたってもできない組の方が圧倒的に多い。

第二に決まって聞いたのは、「食べ物の好き嫌い」である。食べ物の好き嫌いがあれば、概ね人の好き嫌いもあるもので、あれもこれも食べられないとなると、それに比例して人の好き嫌いも激しくなる(ように思う)。

週刊誌をつくる作業にはクリエイティビティが要求される。そして、人の好き嫌いが激しく性格もトンガッている記者からは、得てして思わぬ発想、独創的な企画が出てくることが多い。

「人の好き嫌いはありますか」と聞けば、誰だって「あります」とは言いにくいだろう(はっきりそう答えてくるやつは、それだけで見どころがあると個人的には思うのだけれど)。なので、「食べ物の好き嫌い」を聞くわけだ。

もっとも、好き嫌いばかりが激しくて、どうにも使い物にならないという「地雷」もそこかしこに埋まっているので、注意は必要である。ま、注意するっていっても、たかが15分やそこらの面接では神様じゃあるまいし、断定できるわけもない。とどのつまり、最後は「賭け」だ。

第三は、「併願について」。つまり、他にどんな業界、会社を受験しているのかを聞く。みずほ銀行とか三菱商事とか、はたまたリクルートやらを回るかたわらで、出版社を志願してくる学生って何やねん?、と思う。実際にそういう学生がいるのだから、最初は驚いてしまった。

考え方が古いと言われるかもしれないけど、採用する側としては、やっぱり「週刊誌をつくりたい」という熱を感じたいのだ。銀行との併願なんて、それだけで誰が何と言おうと個人的には願い下げである。

ところがギッチョン、そうも言ってはいられない。何とも悩ましかったのは、何が何でも出版社に入りたいという学生のアタマが往々にして悪く、平気で銀行と併願してくるタイプの学生の方が使えそうなことだ。

面接にあたって学生の出身大学などはまるで見なかったが、50人に1人くらいの割合で「こいつは使える」という人材に行き合うと、自然に履歴書を確認してしまう。そこには、必ず東京大学とか京都大学とか書かれている。

学歴差別をしない、出身大学を問わないという動きが一般化して久しいが、東大・京大クラスなら出身大学から内定者を絞り込んでいったほうが早いのではないかと思ったものだ。しかし、彼ら彼女らには繰り返しになるが、出版事業への思いなどはかけらもない。

かつて50人に1人どころか500人に1人だと思える、東大の女子学生がいた。面接が終わった後で彼女とサシで話し、「とにかく、ウチに来てくれ。来ると約束してくれれば、全力で内定まで通す」と請け合った。本気で社長に直談判するつもりだった。

彼女は、二次面接にすら来なかった。きっと、ゴールドマン・サックスとかマッキンゼーとかに就職したのだろう。