第64回 昔「払うひと」、今「貰うひと」。運命の逆転で痛感させられた「因果応報」

今はどうなっているか知らないが、その昔の週刊誌編集部では外部ライター、カメラマンに対する原稿料・撮影料支払いについては、担当記者が請求手続きをしていた。

担当記者が伝票を起こさないことには、経理部に支払い情報が伝わらず、仕事をお願いした皆々様に迷惑をはねちらかすことになる。

当時、そういう意味において社内外で最も悪評が高かったのは、おそらくというか間違いなく筆者だったろう。

担当していた政治評論家などは業を煮やして経理部に直接電話を入れ、「いつになったら振り込んでくるんだ!」と怒鳴りまくったそうな。

あるカメラマンに対しては、あれで確か200万円くらいの未払いが発生していて、年の暮れに「さすがに、もう払ってくれないかな」と泣きつかれたこともある。

細目(「何月何日号、何の記事に関する写真撮影」的な)は一切すっ飛ばして、「合計額だけでいいですか」と経理部長に掛け合ったところ、冷たく一言「ふざけんな」と突き放され、丸一日ほども伝票と取っ組み合う羽目になった。

カメラマンに電話をかけて、さも得意げに(と受け止められたらしい)「伝票切ったよ。ボーナスだねえ。今度おごって」と言ってのけたものだから、やはり「ふざけんな」と返された。我が事ながらアキレタボーイズである。

このカメラマンとは会社を辞めて十余年たった今も付き合いがあり、たまに酒も呑む。そんな時には決まって、「今度おごって」の話が蒸し返される。

もっとも、支払いが遅れるのは、外部だけではなかった。自分自身の取材費請求すら放ったらかしになるから始末に負えないのだ。

以前にも書いたことだが、年間1000万円を超える取材費(取材先との会食費用)を使っており、それらはすべて一時的に担当記者が立て替える。原則として仮払いはない。

編集長からは「呑んだら、必ず翌日に伝票書けばいいんだよ。そうすれば、溜まらないだろ」とよく言われ、御説ごもっともだと思ったけれど、どうしてもそれができなかった。

3ヶ月、4ヶ月は平気で溜まる。立て替えで資金繰りが苦しくなって、ようやく領収書・請求書の山と向き合う覚悟ができる。

3ヶ月なら300万円前後の経費請求だから、編集部も経理部もちょっとした騒ぎになり、何度も始末書を書かされた。経理部長の机には束になった始末書がこれ見よがしにピン留めされていて、無言のうちに「またおまえか!」と威嚇してくる。

そのうち、「2ヶ月ルール」とかいうのができた。社内統一基準だが、明らかに筆者1人の「狙い撃ち」である。2ヶ月はキツいなと思っていたら、そのうち1ヶ月に短縮された。

1ヶ月以内に経費精算しなければ反故にされる。さァ大変だ。それでも、この1ヶ月ルールに何度か引っかかったから、これはもうアッパレと言うしかない。1ヶ月だって100万円を超えるんですよ。マジ笑えない。

外部ライター、カメラマンに対しては、精算がいくら遅れたところで、必ずギャラは支払われる。こちとらは、そうはいかないのであった。

とかいう話を、なんで長々しているのか。

今の今になって、その時代の自分自身に「復讐」されているからだ。まさしく「因果応報」というやつである。

よほど大手の出版社でない限り、「担当者が伝票を切って」というスタイルは昔と変わるものではない。

で、こっちが「外部ライター」として書く側になって痛感したことだが、どいつもこいつも遅れるわけだ。驚くくらい(当メルマガ発注者は「優等生」です、念のため)

それでも昔を思えば腹を立てる気にもなれないし、そもそもどんな原稿を書いていくら貰えるかを忘れていることすらある。エライコッチャ。

遅れるだけならまだしも、踏み倒されることも二度三度とあった。発注先の出版社が潰れるのだ。

会社を辞めた2010年当時は、4000社近い出版社があった。今、3000社を切っている。この10年余りで4分の1が消えた計算であり、そのトバッチリを食らうことになろうとは夢にも思わなかった。

破産した出版社の、いわゆる「債権者集会」というやつに出席したこともある。積もり積もって数百万円の原稿料であっても、その会社としては「大口」だったものだから、引きずり出される格好になってしまったのだ。

支払いが遅れ遅れになって、みたいな前兆があると警戒しようもあるのだけれど、そもそも定期的にきちっと支払われるわけでもないのだから、ちょっと打つ手がない。さりとて零細・中小出版社の仕事は受けないとなれば、こちらが干上がってしまう。

繰り返しになるが、因果応報である。

あの日に戻れるならば、原稿料・撮影料の支払いも取材費の請求も真面目にやろう。と日記には書いてみるのだが、まァ出来ないでしょうな。出来るくらいなら、とっくの昔にやっている。

兎にも角にも担当編集者(当メルマガは除く)のみなさまには、どうか原稿料の支払いをお願い申し上げます! 本当に言いたいことは、それだけのような気もする今日この頃です。