第67回 ビジネス誌のページ数と印刷用紙、そして「ステルス値上げ」の舞台裏をぶっちゃける

用事の合間に、ちょっとした空き時間があったので、本屋をぶらついてきた。本屋というのは、暇つぶしにはもってこいの空間であり、行くたびに新たな発見があるから楽しい。

もっとも、雑誌の売り場をのぞくことはほとんどない。元が「雑誌記者」なのにね。ビジネス誌に限らず、それだけ雑誌の魅力がなくなっているということでもあろう。

先日は、たまたま、その昔に働いていたビジネス週刊誌が並んでいたのを見かけたので、手に取ってみて驚いた(中身は一切読んでいない。手に取っただけである)。

まず、「値段」である。最新号が特別定価880円、その隣に並んでいたバックナンバーが定価780円と書かれてある。

ずいぶん高くなったなァ、と思った。880円で売れるのかいな、こんなもん。という印象である。

余談だが、「特別定価(特価)」というのは、通常は「安売り」である。雑誌くらいのものではないか、特別定価の方が高いのは(笑)。

次にびっくりしたのは、その「薄さ」である。かつての半分といえば大げさだが、それに近いくらいペラッペラになってしまっている。

こうなると、880円はますます「高い」なと感じてしまう。買わないからいいんだけどね。ビジネス誌を買うくらいなら、(こちらも先般500円に値上げされたものの)銭湯でひとっ風呂浴びたほうがよほど気が利いている。

昨今は円安、インフレの影響もあって、味噌もクソも値上げに踏み切っているが、どんなもんだって値上げはしたくないのがホンネだろう。値上げすれば、必ず売り上げが落ちるからであって、それは雑誌も例外ではない。

なので、値上げする前に、必ずやるのはページ数を減らすことである。120ページの雑誌を108ページに減らせば、さほど目立つこともなく印刷用紙のコストは1割減る。

紙代というのはバカにならないもので、雑誌の製造原価の3割くらいを占めており、これが10%減るだけでかなりのコストカットになるのだ。

鳥の唐揚げ10個入りを1つ減らして、売値据え置きにする。というのと同じ理屈である。いわゆる「ステルス値上げ」というやつだ。

しかしながら、目立つほどページを減らすわけにもいかない。

またまた話は脱線するが、「戦略的に」減らすという考えはあるにはある。今どきのビジネスパーソンは忙しく、スマホに時間を奪われてもいる。思い切って、ニューズウィーク並みにページ数を減らし、定価を500円未満に引き下げる。という議論は、編集部では昔からあった。

結果として、ページを減らして、定価が上がっているのだから、お話にならないわけだが、これには致し方ない事情もあろう。

話を元に戻すと、ページ数を減らしたら、次は「印刷用紙」の見直しである。日本は世界に冠たる製紙大国であり、雑誌用の印刷用紙だけで何十、何百という種類がある。値段もピンからキリまであり、これを安いものに変える。

鳥の唐揚げだって、いくら売値据え置きでも10個入りを7つとか6つに減らすわけにはいかないだろう。ならば、中国産に切り替えるか。というのと同じ理屈である。

仄聞するところによれば、印刷用紙は昨年だけで(段階的にではあるが)30~50%も値上がりしたそうな。そりゃ、見直しするしかないでしょう。

本好きの皆々様にあっては、容易に実感いただけると思うが、印刷用紙というものは高い安いで驚くほど「手触り」が違うものである。

印刷用紙を変えるにあたっては、多くの見本を取り寄せ、実際に製本してみるのであるが、思い切り安いものになると、ほんと手触りがザラザラペラペラで哀しくなってしまう。

なので、ほどほどのものを選ぶことになり、それではコスト削減も中途半端になるので、最後は値上げするしかなくなる。値上げすると売り上げが減るから、さらにページ数を減らし印刷用紙を悪くし、とどのつまり再値上げせざるを得ない悪循環に入ってしまう。

「致し方ない事情」というのは、そういうことを指している。

こういう状況にはまってしまっている以上、「ビジネス誌はそもそも世の中に必要とされているのか」という議論が、つくり手には必要だろう。

必要とされているのか、いないのか。必要とされているとして、どんな情報が期待されているのか、もしくは期待されていないのか。昨今のビジネス誌の新聞広告を見ていると、そういう本質的な議論がなされていないような気がしてならない。

繰り返しになるが、ビジネス誌などは買わないし読まないし、今となっては「つくり手」ですらないので、どうでもいいといえばどうでもいいのである。さはさりながら。そんな実感が拭えない今日この頃なのだ。