第68回 政治家を使って官僚のホンネを引き出す「裏ワザ」、国会(議員)対応に追われる霞ケ関の実態

今回は、ちょっと変わった取材方法について、舞台裏を打ち明けることにしてみたい。新聞・雑誌を問わず、これから紹介するようなアプローチを多用していた記者はほとんどいなかったのではないかと推察されるので、ひとつお付き合いを願います。

ひとことで言うと、「政治家」にひと肌脱いでもらうのである。金融問題、郵政問題なんでもいいが、官僚が絡むテーマに関しては、親しい国会議員に官僚を呼びつけていただき(もとい、お呼びしていただき)、レクチャーをしてもらうのだ。

こちらは党の政策スタッフもしくは政策秘書のような顔をして、政治家センセイの隣に座り、官僚に話を聞く。ひととおりのレクチャーが終わると、もっぱら質問するのが「秘書」で、「議員」は隣でウンウンとうなづいていたりする。主客転倒もはなはだしい(笑)。

このアプローチのメリットは、大きく2つある。

まずは、スピードだ。記者が申し込んでもなかなか時間を取ってもらえないのに、政治家が呼びつける(もとい、お呼びする)と、今日明日ですっ飛んでくる。

有力政治家になると、「1時間後にお伺いしますが、ご都合よろしいですか」。で、こちらに電話がかかってきて、「1時間後って言ってるけど、あんた来られる?」「それは無理です」みたいなことにもなりかねないほど早い。

次に、情報の質だ。記者相手、政治家相手で、官僚のレクチャーの質は明らかに異なる。政治家に対しては、聞かれていないことまで丁寧に背景を説明するし、世間には知られていない情報もバンバン飛び出す。

実に有用なやり方なのだが、しかし難しいのは国会議員の選択だ。勉強熱心な、いわゆる「政策通」でないと、こちらの話に乗ってきてくれないし、有力なセンセイじゃないと官僚に見下されて、いい情報が取れない。

勉強熱心で有力であることに加えて、そういうセンセイ連中と昵懇の間柄にならないと、「おねだり」すらできないことは言うまでもない

一度驚いたのは、金融制度改革に関する方向性についてレクチャーをお願いしたときのことだ。金融庁が9人、財務省が2人やってきた。当時の議員会館の応接には入り切らなかったので、別に会議室を借りたくらいである。

さすが有力政治家ともなると、霞が関の対応も違ったものだ。と感心していたのだが、結局、2時間のレクで喋ったのは、金融庁の2人だけだった。残りの9人は最初から最後までひとことも口を開かず、なんじゃこれと思った。官僚の無駄遣いにも程があろう。

官僚にも知り合いが多いので、ツテがあればセンセイに頼るより、直接当たったほうが早い。なので、センセイに呼びつけてもらう(もとい、お呼びしてもらう)官僚のほとんどは初対面なのだが、こういう「無駄遣い」があるがゆえに、知った顔が混じっていることも稀にはある。

こちらは政策秘書のような顔をして座っているから、テキも挨拶しながら一瞬ギョッとした表情になる。レクチャーが終わったあとで、「いったい何やらかしちゃってくれてるんですか?」と電話がかかってきたりする。その場でネタばらしをするようなことは、さすが霞が関の高級官僚はしない(笑)

閑話休題。

ひと昔前、東大を出たばかりの財務省官僚に取材したら、「とにかく残業が長い。ブラックですよ、財務省。残業込みで時給換算したらセブンイレブンより安くて、思わず笑ってしまった」と言っていたことを思い出す。

中央省庁の官僚にとって、残業のほとんどが国会(議員)対応で占められていることは、周知の事実である。

内閣立法の原案をつくり、政治家に根回しして、国会日程をにらみながら法案を成立させるのが官僚の仕事なので、致し方ないと言えば致し方ないのではあるが、それにしても非効率ではなかろうか。

以下は、『日本の国会議員』(濱本真輔著、中公新書)からの引用である。

・各府省庁の業務量調査(2018年)によると、官僚が出席を求められた政党の会議は年1万1607回にのぼる。

・国会連絡室経由での議員からの資料請求と(官僚に対する)説明の依頼は2018年の1年間だけで5万4130件になる。

・議員による国会質問の事前通告は「前々日の正午まで」という申し合わせがあるにもかかわらず、
実際には「全省平均で前日の21時近く」である。

悪名高き「事前通告」に限っても、前日の21時近くに質問が出揃い、そこから各省庁に割り振られて回答をつくるのでは徹夜仕事になるのも当然だろう。

また、官僚が公式に出席を求められたり、国会連絡室を経由したりする以外にも、非公式な「ご説明」は吐くくらいある。非常に申し訳ないことだが、筆者もまた非公式に余計な官僚の仕事を増やしていたクチだ。

官僚には国会(議員)対応もさることながら、真っ当な政策立案に割ける余力・時間を確保していただかないと、これからの日本はお先真っ暗である。

そういうわけで、政治家を使って官僚を呼びつける(もとい、お呼びする)ような真似は、良い子はくれぐれもしないように。

蛇足ではあるが、『日本の国会議員』はなかなかの良書である。興味がある向きには、ご一読をお薦めします。