第1回 「幻のクワガタ」

パパクワッチさんの紹介
日本最大手のIT企業でまだ40代だというのにシニアマネージャーを務め、毎朝スタバで1時間は英語の勉強をし、顔は大きくないが広く年に数回は有名大学などでサービスサイエンスなるものの講義をし、落ちぶれ中年のおっさんには手の届かない存在と思いきやプライベートはクワガタオタクいやオタクなどというレベルはとっくに突破してやはり凡人には手の届かない存在でございます。

サービス業の方、クワガタ好きの方には必見のコラム。お楽しみに!

 

生まれた年は、東京オリンピックが開催された昭和39年。昭和で言うより、1964年という響きの方が好きだ。

白状すると、間もなく47歳とは全くをもって信じがたい。

父親が金融関係ということもあり、我が家は転勤族であった。

そんなわけで西へ東へと全国を転校したのだけど、小学校の低学年から卒業までの大阪の河内(柏原市)での生活は私の人生に大きな意味を持つことになった。

子供の頃から生きものが好きで昆虫博士と呼ばれることもあった少年は、ひと山越えて小学校に通うという自然に恵まれた環境に放り込まれた。

春から秋にかけて毎日が昆虫採集という、願ってもない環境の中で母親に買ってもらった大切な昆虫図鑑の中の綺麗な絵の虫を1つ1つ捕まえていくことができるとは何と幸せなことか。

しかし、とりわけ大好きなクワガタムシのページの中で、捕まえることも、実物を見ることも叶わないクワッチがいたのだ。まさに幻のクワガタである。

“オオクワガタ”

このコクワガタの親分のような黒く変哲もないクワガタは、子供のころにはあまり興味がなかった。それよりは、ノコギリやミヤマ、そして僕の一番の憧れのクワガタはヒラタクワガタだった。

小学校を卒業すると再び東京での都会暮らしが始まった。いつしか月日は流れあっという間に大人になってしまった。

社会人となった僕は、IT業界の端くれとしてCRM(顧客関係性管理)という分野のコンサルタントをするようになった。

これは字のごとく、顧客との関係を管理し、顧客満足を上げて企業への顧客のロイヤリティを上げる仕組みのことをいう。

今でこそ、CRMという言葉は経営やITの世界では当たり前になっているのだけど、実は日本で初めて”CRM”の本を企画したのは何を隠そう僕なのだ。

当時から、欧米で生まれたこの考え方が、商人の心を持つ日本人にとって馴染みやすい考え方であることに気づいていたのだか、最近ではさらにサービスサイエンスという研究領域に興味が拡大している。

少々脱線したが、プライベートでは、学生時代に知り合った彼女と結婚して、無事に一男一女の子宝にも恵まれ、ごく普通の賑やかな家庭を持つことがで
きた。
そんな幸せな日々を送る僕のその後の人生を変えるその日は突然やって来た。

2002年の夏に家族で横浜の八景島に行った時のことだ。
敷地内のイベントスペースのような場所に森のようなコーナが創られていた。
何気なく、坊主と中を歩くと懐かしい匂いがしてきた。かぶちゃんの匂いだ。
誰でも嗅いだ事のあるこの匂いは決していい匂いではない。むしろ、嫌いな部類だと思うのだけど何か懐かしさを感じさせるものだった。

森のような装飾を通り抜けた先には、なにやら不気味な白いビンが並んでいた。
そしてその横には小型の水槽に大きな黒い物体と水槽の張り紙に目が釘付けになった。

”オオクワガタ?!”

そう、子供の頃には図鑑の中の綺麗な挿絵でしか見たことのなかった幻のクワガタが目の前にいるではないか。しかも生きているのだ。

暫し、僕はその水槽の前から動けなくなってしまった。

結局、その日は一日中オオクワガタのことで頭がいっぱいで何も考えられなくなってしまった。

フツーのサラリーマンをしていた30代後半のお父さんはそれ以来、息子とクワガタムシやカブトムシの採集や飼育に夢中になっていく。

会社の先輩に「筑波山のふもとに来れば木を蹴れば、ボトボト落ちてくるよ!」と言われれば筑波山へ車を飛ばし、「東京でも玉川上水に行けばカブトムシなら採れるよ」と言われれば仕事を終えてから夜間に出撃することも厭わなかった。

この世界では、クワガタ好きのことを「クワ馬鹿」と呼ぶらしい。
そしてお父さん世代になった僕のようにクワガタの採集や飼育を再開する大人たちがとても増えているようだ。

「パパクワッチ」

それが、いつしか我が家で僕に付いたニックネームだ。

これからパパクワッチが実践して来たオオクワガタのブリードサービスの世界を、CRMとも関係の深いサービスサイエンスの視点で紹介していきたいと思う。