第33回 ○○はじめました

この季節になると、ちらほら見かけるのが「冷やし中華はじめました」という幟(のぼり)や貼り紙です。

「夏は熱々で濃厚なラーメンはちょっと勘弁だなぁ」というのが人情ですから、この時期にラーメンを食べる人は確実に減ります(って、データはないのですが)。

そこで売上を落としたくないラーメン屋さんは「冷たいラーメンもありますよ」というシグナルとして件(くだん)の幟や貼り紙を用意するのでしょうね。

あっ、でも告知が目的なら「冷やし中華あります」でよさそうですね。
なぜ「はじめました」なのでしょう?

ここにはラーメン屋さんの心の葛藤があるのですね。
職人気質のラーメン屋のご主人は、本当は作りたくないけれど、経営のために主義を曲げて、あえて冷やし中華を作っているのです。

『おれは本当は冷やし中華は作りたくないんだ!
起源がトコロテンか、バビロニアかもはっきりしてないそんな食べ物作りたく
ないぜ。
でも家には可愛い女房とこどもが腹を空かして待ってるんだ・・・。
だからこの猛暑の時期だけ、おれはプライドを捨てて、冷やし中華を作るぜ。

いつでも冷やし中華が「ある」わけじゃないんだぜ。
今「はじめる」けど、秋の声が聞こえたら「終わり」にしちまうんだぜ。けっ!』

あの幟にはこんな心の叫びが潜んでいるのでした(んなわけないですね)。

ところで、私の知人のTさんは暑いのが大の苦手です。
気温が35度を越えた日、仕事を終えて、汗だくになって帰宅したTさんは、夕食に熱々のスープパスタ(しかも激辛のハラペーニョ入り)を出されたのでした。

暑くてイライラしていたうえに、たまたま虫の居どころが悪かったTさんは、つい奥さんに「こんな暑い日にこんな熱いものが食えるか!」と声を荒げてしまいました。

「あなたが夏バテしないように、スタミナがつくように考えてつくったのよ」
と泣き崩れる奥さん。

夏場に修羅場です。

気まずい一夜を過ごし、出勤したTさんは、またまた汗だくで帰宅すると、なんと家の前の塀や庭木に「冷やし中華はじめました」の幟や貼り紙が「幸せの黄色いハンカチ」のようにハタハタと舞っていたのでした。
奥さんも気にしていたのですね。いい話です(って、どこが?)。

近所の床屋さんの大きなウィンドウに貼り紙が出ています。
「冷シャプはじめました!」という謎の文字の横には、あまり(ほとんど)似ていないアントニオ猪木氏らしき人物が泡まみれの頭で「ダーっ!!」と叫んでいる絵が書いてあり、さらに、その猪木氏モドキの絵の横には、「燃える闘魂!冷える毛根!!」の文字が赤と青の原色で・・・。(・・・とほほ度100%の貼り紙です。このオヤジギャグだけで体が芯から冷えました・・・)

「冷シャプはじめました」の「冷シャプ」は、たぶん「冷やしシャンプー」と予想されますが、なんで「冷しゃぶ(冷たいしゃぶしゃぶ)」と見間違うような、こんな変な省略をしているのでしょう?

で、調べてみたところ、なんと『冷やしシャンプーはじめました』は商標登録されているのです。(TMか○Rが必要ですね・・・)
商標不正使用で提訴されないための苦し紛れの「冷シャプ」&「冷える毛根」なのでしょう。
でも、アントニオ猪木氏の肖像権と「ダーっ!!」の著作権は問題ないのでしょうか?あっ、下手くそな絵だから肖像権はセーフか?!
う~ん、よくわからないので、頭を冷やして考えます。。。

夏本番となって、節電も本番となった今年は、今まで見なかったところで「冷やし○○はじめました」を見かけます。

◆定食屋さん
「冷やしカツ丼はじめました」(冷えたトンカツは美味しいのでしょうか。話のタネに食べてみたい気をしますが、ちょっと怖いです。食べた方、感想をお聞かせください)

◆中華屋さん
「冷やしおかゆはじめました」(おかゆと言えば、頭痛が痛いと不正にズル休みをした日に、母が作ってくれた熱々のおかゆを思い出します。おかあさ~ん(涙)おみそならハナマルキ♪・・・なんのこっちゃ)

「冷えた八宝菜はじめました」(これは、映画「忍たま乱太郎」の宣伝でしょうか?・・・実写版では、稗田八方斎(ひえたはっぽうさい)は松方弘樹さんが演じるようです・・・どうでもいい情報ですね)

◆居酒屋さん
「冷やしおでんはじめました」(昨日の残り?)

「冷やし豆腐はじめました」(って、冷ややっこ?)

「冷やしビールはじめました」(お隣の国と違ってビールは冷たくないと。でも、これはさらに冷たいエクストラコールドビールってことかな?)

「冷やしモヤシはじめやした」(って、韻を踏んでるだけ?)

「冷や水はやめましょう」(って、誰が年寄りじゃ!)

◆駄菓子屋さん
「冷やし飴はじめました」(冷えたチュッパチャップスじゃないですよ)

「冷やしガリガリ君はじめました」(たいていガリガリ君は冷えてますが・・・)

「冷や菓子はじめました」(「ひやかし」はまずいでしょ。買ってもらわなきゃ・・・)

暑すぎて「冷えた」話では盛り上がらないですね・・・だれてきました。
なので(?)、「冷やし」以外で街に溢れている「○○はじめました」を観察してみましょう。

●オフィス街の一角で見つけた【節電はじめました】の看板
この会社は、自社が社会に協力(貢献)していることをアピールしたいのですね。たぶん総務部が経営層から言われてやったのでしょうね。
残念ながら、この【節電はじめました】の看板を電飾で目立たせ過ぎたのは電気の無駄遣いです。

●官庁街の一角で見つけた【クールビズはじめました】の貼り紙
出入りしているひとの装いがなんともレトロです。省エネルック時代にタイムスリップしたようです。やはりループタイなのですねぇ・・・。

●オフィス街で見つけた【スーパークールビズはじめました】の貼り紙
さすがに民間企業のファッションセンスはいいですね。涼しげで、とても会社に来ているようには見えません(もちろんほめ言葉です)。
こちらはI社さんも実施中です。Aさん素敵です。似合ってます(ってイニシャルにする必要はないですが)。

●さらに上を行く【ウルトラスーパークールビズはじめました】の幟
「ウルトラスーパークールビズ」は上着すら着てません。
下穿きのみの裸です。
こちらは両国でみつけました。
「白鵬」「魁皇」と書いた幟と並んではためいています。

●もっとすごい、そして素敵な【クールビズ】を夜のお店で見つけましたが、自粛します。

まだまだ街には多くの【○○はじめました】が溢れています。

●【出前はじめました】
(最近ではファミレスやファストフードも出前してくれます)

●【高校野球中継はじめました】
(昔ながらの喫茶店の入り口に貼ってあります。賭けたりしてはいけません)

●【家庭教師はじめました】
(モンスターペアレントのせいで不登校になった先生が、家庭内で教師であることを宣言しました)

●【おとこ教室はじめました】
(「おこと」の誤りです)

●【ダイエットはじめました】
(このあとリバウンドがはじまります)

●【フリーターはじめました】
(フリーターのプロ宣言です。ありきたりの仕事はしません。プロのフリーターですから)

●【人間はじめました】
(人間性回復の宣言でしょうか?でなければ、ゴンかギャートルズです)

他にもたくさんの【○○はじめました】を見つけましたが、際限がないのでこのくらいにしておこうと思います。

ただ、この取材(えっ、取材だったの?)を通じて感じたのは、先の見えない現代に「はじめた」ことに対する責任感の希薄さと展望の甘さが見え隠れしているということです。

「はじめ」があれば、必ず「おわり」もある。どんなエンディングを想定して「はじめた」のか?

【○○はじめました】というコラムを書き始めたときに結論まで考えていたのか?>自分

まさか、なんのコンセンサスも取らず、自分で知恵を出さずに「はじめ」てしまったのではないか?
それじゃ、誰も助けてくれません。いいですか?これはオフレコです。
これを書いたら、その社は終わりです。

ということで、今月は終わりです。(なんのこっちゃ)

※毎年のことながら夏バテでしょうか?エネルギー不足を顕著に感じます。
来月に向けて【エネルギー補給はじめました】

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