第9回 「事前期待のマネジメント」

毎日寒い日が続いていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

この時期になると、”成虫のクワッチは、冬眠するのですか?”という質問をよく聞くようになります。

答えは、YesでもNoでもあります。

実は、クワッチは仲間によって、越冬して翌年成虫で再び活動する仲間と一年限りで子孫を残して死んでしまう仲間がいます。

一夏で死んでしまう仲間は、ノコギリクワガタやミヤマクワガタです。成虫で地上に出て来てから数カ月の間に子孫繁栄のためのフィアンセを見つけて子作りをしなければならないはかない種族です。

一方、初冬になると樹木の根っこや樹洞などでジッとして冬を越す仲間もいます。学名でDorcusがつく、黒くて平べったい仲間が越冬する種族です。
具体的には、オオクワガタやコクワガタ、ヒラタクワガタの仲間です。

我が家のオオクワッチでは、最長で3回越冬した子がいましたよ。
その子は、孵化してから成虫になるまで2年掛っていましたので5年間も生きていたことになります。

もうすぐ春、次回のコラムをお届けする頃にはオオクワッチたちも冬眠から目覚めてくるころです。

さて、2月1日の情報処理学会「ソフトウエアジャパン2012」のサービスサイエンスフォーラムでは『サービスを買ってもらう前にファンにしてしまう』
というテーマで講演させていただきました。

http://www.ipsj.or.jp/event/sj/sj2012/itforum_ss_program.html

このコラムで紹介させていただいたこともあり、大変たくさんの方々に来ていただきました。最近、情報処理学会の中でもサービスサイエンスフォーラムは特に人気の高いフォーラムとなっています。

実は、当日は同じ情報処理学会の中でJEITAさんによるパネルディスカッションにも参加する予定はがあり、ハシゴをする関係でサービスサイエンス
フォーラムのパネルには参加できませんでした(残念)。

講演後、facebookやtwitterでも様々なご意見をいただき、重ねてお礼申し上げます。

さて、このメルマガのコラムも9回目。前回は、サービスサイエンスのエンジンと称して、事前期待なる概念についてお話しました。

この事前期待の中味には1.サービスのメニューそのもの、2.サービスの品質、3.サービスの価格の3つが挙げられ、サービスサイエンスの肝はこの事前期待の持ち方にあると紹介しました。

事前期待の持ち方は、以下の4つです。

・共通的事前期待
・個別的な事前期待
・状況で変化する事前期待
・潜在的な事前期待

詳しい内容は、前回のコラムを見ていただきたいと思いますが、この事前期待の考え方には、たくさんの反響がありました。

長年営業のトップを務めてきた方からは、”営業として何が本当のサービスなのかずっと考えてきました。このように体系化してサービスの機能・精神を深堀したのはもちろんのこと、クワガタの趣味と連携して説得してしまうところにインパクトありと思いました”とのコメントをいただきました。

ある会社の役員の方からは、”当社もCS活動の1つとして既設顧客へのアンケートをしていますが、「御社の営業がよく来てくれて迷惑だ」というのがありました。
「営業が来ない」と言われるのではと先入観がありましたが、「忙しいので用があれば電話する」とのこと。これはお客様の事前期待を掴んでいないからですね”とのこと。これは、まさに個別の事前期待ですね。

証券会社の友達からは、”事前期待と実績は仕事柄いつも意識しています。実績(現状の株価)よりも本当はもっと高いはずなら買うし、逆なら空売りして儲けるような世界です。実際は、柴崎さんの言うように健全ではないですよ”とのコメントもらいました。なるほど、奥が深いですね。

他にもたくさんのコメントをいただきました。
みなさん、ありがとうございました。

さまざまな業種や業務、シチュエーションでこの事前期待の考え方を適用してみると色々なことが見えてきますよ。ぜひ、身近な例で考えて見てくださいね。

前回、お客様が感じる顧客満足と事前期待の関係についても紹介しました。
それは、お客様の事前期待と実績評価(結果)との相対関係で決まるというものでした。
事前期待を実績評価が上回ると、”これは素晴らしい!”ということでリピート客化やクチコミが期待できます。逆に、実績評価が大きく下回ると、
”あー、損した!”ということでお客様を失いかねないというものでした。

今回のコラムでは、この事前期待のマネジメントについて具体的な例を紹介をしたいと思います。

そもそも、お客様の事前期待をマネジメントすることなんてできるのでしょうか?

答えは、Yesです。

例えば、「過大な事前期待」を持ったお客様に対するマネジメントは、妥当な事前期待にするために冷やす必要があります。

このためには本音のコミュニケ-ションやお客様との契約内容の確認、お客様の当初の要求内容の確認をすることで適正な水準に戻すことができます。

また、「過小な事前期待」を持ったお客様に対しては、対象となる商品やサービスの魅力を伝えるための施策が必要となります。この場合、他社との優位点や自社の商品やサービスの魅力を客観的に伝える施策が有効的です。

お客様は誰でも、自分のことを考えてくれていることが分かると嬉しくなりますし、その企業やお店に対して愛着や忠誠心(ロイヤリティ)が湧くものです。
つまり、事前期待を適切に把握し、マネジメントすることで多くのお客様を自社のファン、場合によっては応援団にすることができるのです。

僕が、初めて事前期待のマネジメントについて議論したときに聞いたディズニーランドのアトラクションでの事前期待のマネジメントは、シンプルな施策でありながら人間の心理を突いたなかなか興味深い方法でした。

ディズニーランドのようなテーマパークでは、人気のアトラクションでは、90分待ちといった長時間待たされるアトラクションも少なくありません。
僕も実際経験しましたが、東京ディズニーランドのアトラクションでは、行列の最後尾に何分待つのかを表示した看板が置かれています。

この行列に並んで進むと、やがて75分の表示があり、それが60分になり、30分になり、ついに入場することができたという経験をされた方も多いかと
思います。

こまめに待ち時間を表示してくれることでお客様の過大な事前期待を冷やし、適切にコントロールしているのです。

お客様の事前期待は、時間とともに増加すると言われています。確かに私も勤続10周年でハワイ旅行を予約した時は、申し込みから出発まで1カ月ほどあったのですが、とても待ち遠しくて家族といろいろと妄想したものです。

このお客様の待ち時間にお客様の事前期待をうまくコントロールすることで過度の期待による実績との差による落胆を防止し、適切な評価をしてもらえるようになると考えています。

クワッチの世界でも、事前期待のマネジメントは重要です。
たとえば、オークションで落札後、お客様のお手元にクワッチが届くまでの間のコミュニケーションが効果的な場合があります。

特定の産地を楽しみにされているような場合には、関連する情報を事前にお送りする場合もあります。例えば、熊本産のオオクワッチを待っているようなお客様に採集地の生息環境や産地の名産品などをメールやソーシャルメディアで教えてあげることで事前期待が補強されます。

また、トラブルが発生したときこそ、お客様とのリレーション構築のチャンスだと考えています。

具体的には予定していた個体が死んでしまったり、何らかの原因でお客様の希望通りにクワッチをお届けできない場合です。

このような場合には、お客様の事前期待は落胆に変わってしまっているかもしれません。具体的なマネジメント例としては以下のような対応が考えられます。

・当初予定していた個体が死んでしまった場合など、より条件のよい個体(大きさやカタチの優れたもの)にアップグレードして提供する。
・選択肢として、お取り引きのキャンセルもご提案し、選べるようにする。
・サプライズとして、追加でオマケの品を梱包にしのばせる。(同じ血統の♀の追加)

日常生活のなかでも事前期待のマネジメントの実例はたくさんありますね。

【サービス提供前に期待値を調整】
・お蕎麦屋さんで「ご注文頂いてから湯がきます」と張り紙がしてある。
・新しいお客様に「最初はいろいろと問題が起こると思います」と言っておく。

【サービスの提供途中で期待値を調整】
・ラーメンは、ビールを飲み終えてからお出ししますか?と聞く、ラーメン屋さん。
・「最初は、皆さん戸惑われますが徐々になれますので安心してください。」とipadのタッチパネルを説明する携帯ショップの店員さん。
・歩行者用信号のカウントダウン機能、高速道路の「予測通過時間」の表示。
・「お口に合いましたら良いのですが」と謙虚に言い、素晴らしい料理を出す。
・「お客様の人柄に合わせて、こころ美人の舞妓さんを呼びました」といって、そこそこの舞妓さんが出てくる。

【サービス提供後に期待値を調整】
・帰りがけに「今月はお誕生日でしたね!」と小さなお花をプレゼントしてくれる美容室。キレイな髪になった上にお花を持ってルンルン姿で帰る女の子。

いかがですか?

みなさんの事前期待のマネジメント体験談や事前期待をマネジメントの実践例を是非お聞かせください。

(つづく)
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