第4回 「ワーイ」の悲劇

つい最近、ネットで誰かが面白い本を紹介していた(と言っても読んでないので、というか手にもしていないので面白いかどうか定かではない)。

それはケン・フォレットという人が書いた「大聖堂」という本らしい。
新潮社から文庫本で出ていたらしいが、今は絶版とのこと。
ふ~ん、それは読んでみたいなと心の片隅に小さくメモしておく。

ところが、その後、たまたま寄った「ブックオフ」の105円コーナーに、なんと「大聖堂」が上下2冊であったのだ。
「ワーイ!」と喜んで、棚から引き抜いてそのまま会計へ。
わりと綺麗な体裁の本が2冊で210円で買えるなんてラッキーじゃん♪

喜び勇んで帰宅して、あらためて「大聖堂」をよく見ると、なんとこの文庫本は上中下の3冊本なのだった・・・。読む前に気づいたからよかったのか、買う前に気づくべきだったのか・・・。

それにしても、昔からいつも「ワーイ!」と喜んだあとで必ず悲劇が起こるのだ。

小学3年の冬のこと。
朝、目が覚めるとその年初めての雪が降っていた。
「ワーイ!」と喜んで急いで準備をして、いつもより早く家を出ると、近所の友達もはしゃいでる。
その友達と犬ころのようにじゃれながら、学校へ行くためにバス停に向かった(田舎に住んでいたので学校は遠かったのです)。

ふざけながらバスに乗って、うきうきしながら学校に着くと、そこで初めてランドセルを背負ってないことに気がついた。がびーん、どこで忘れたんだろう?

って、家を出るときからランドセルを背負ってなかったんですね。
気づけよ、親。気づけよ、友達。って毒づく前に、気づくべきは自分ですね。
はい。
(それから他人を信じない人間になってしまった・・・)

小学5年の秋のこと。
同じクラスの女の子が転校していった。
もはや名前は忘れてしまったが、目のクリッとしたリスのような女の子だった。
アイドルにたとえると栗田ひろみか吉沢京子みたいな感じかな(って、古いな・・・)。

別にその子に心惹かれていたわけではないが、なぜだかその子に手紙を書いた。
そして何日か後にその子から返事の手紙が来た。
「ワーイ!」(って、別にその子に心惹かれていたわけではないが)
急いで手紙を開けてみると、
「 Tくんからの手紙は封筒だけで、中味がなかったよ。云々かんぬん」
がびーん。あわてて調べてみると、なぜか机のひきだしの中から出したはずの手紙が出てきた・・・。
まさに顔から火が出て、4畳半の勉強部屋を焼き尽くし自分も焼死した。。。

(それから他人、特に女性に手紙を書けない人間になってしまった・・・)

中学2年の春のこと。
地方のラジオ局が放送していた公開ダジャレ投稿番組。
いつか出演して会場の笑いを独り占めにしてみせると密かに抱いていた幼い野望。
しかしながら、その野望とは裏腹に毎回出される「お題」にダジャレのダの字すらも浮かばない。
毎週、ラジオを聞きながら名人の繰り出すダジャレに、ただただアホのように笑っていた日々。
こんなことではいけない!世界の笑いを独占して公正取引委員会の介入を受けるのだ!(なんのこっちゃ)

ある日の「お題」。

「喫茶店に関すること(メニューなど)でダジャレをつくろう」

必死で脳内にビビビと信号を送り込み、シナプス結合しまくりでクオリアもクリオネも総動員して、必殺のダジャレを創造した。

そしてその最終兵器を解き放つために黒電話の受話器を握りしめ、ラジオ局に電話をかけた。
「プー、プー」と虚しくひびく話中音を何度も聞きながら、辛抱強く電話をかけ続けた。
(このときに人生の辛抱強さの98%を消費したために、その後まったく辛抱のできない人間になってしまった・・・)

百万遍も電話を掛けたかと思われた頃、「とぅるるー、とぅるるー」と呼び出し音が!!

「ワーイ!」繋がった!と喜んだのもつかの間。
「はい。ダジャレ道場です」という無味乾燥な事務的な女性の声。
「あれ、会場じゃないんですか?」
「はい。まずこの電話でダジャレを言っていただいて面白いモノだけをあらためて会場の電話に繋ぎます。まず、お名前と電話番号をお願いします」

そう、簡単な予選会というか、ゴミ駄洒落フィルターがあるのだ。
都会であれば幼稚園児でも知っているようなメディアの常識を、田舎のジュリアン・ソレルは知らなかった。。。

「では、ダジャレをお願いします」と乾いた声で女性が畳みかける。
ほんの数秒前まで笑いのナパーム弾炸裂だと大きく膨らんでいた野望は、無味乾燥事務女性の攻撃により急速に見る影もなく萎み、若くして中年の悲哀に沈み、頭髪は一瞬にして白髪となった。

「はい。吟じます」(って、ウソです)
打ちひしがれながらも、必殺のダジャレを繰り出した。
「これなあに?」
「そんなものしるこ!」(「知るか!」と「汁粉」をかけたのですね。まさにトホホです。お汁粉を出す喫茶店などあるのでしょうか?)

受付の女性「・・・。以上ですね。はい受け付けました。本戦出場のときにはこちらからご連絡します」とまったく連絡する気もない声でいうとプチっと電話は切れた・・・。

受話器を握ったまま呆然と立ち尽くす中学2年の自分。非行に走る14才の気持ちが少しわかった(んなわけないか)。
(そして、それから他人にダジャレや冗談の言えない人間になってしまった・・・)

まだまだ語り尽くせないほどの「ワーイ!」の悲劇は存在する。

19時までビールが半額だ「ワーイ!」と飲み過ぎて骨を折る。

たまたまバーで知り合った女性ともっと落ち着いた店に移動だ「ワーイ!」と付いていくと美人局(フジテレビのアナウンサーではありません)だった。。。などなど。

いつも喜びの次には悲劇が訪れる。
昔の中国の辺境に住むお爺さんのように悲劇のあとに喜びが訪れることはない。
私には「人間万事塞翁が馬」なんて世の中でもっとも信じることのできない
格言なのだ。

教訓「定額給付金だ!ワーイ!・・・って、このあとどうなる?」(「笑点」か!?しかも教訓でもない)

Image060