第10回 管理用土地のナス

ことしの夏は変な気候です。異常気象です。(って、毎年毎年、みんなで言っているような気もしないでもないですが)

雨が多いうえに、日照時間が少ない。北日本では8月上旬まで気温も上がらず、農作物への悪影響は計り知れないものがあります。

今後、野菜不足・米不足で海外から食糧緊急輸入という事態も起こりうるのではないでしょうか?

私をそれを見越して(?)、6月中旬から近くの空き地で野菜の栽培をはじめました。

うちには耕作できる土地がないので、地元の公共機関ぽいところが管理しているっぽい土地を「お借りします」と独り言をつぶやきながら、なるべく人目につかない場所を耕して、ナスと枝豆の苗を一本づつ植えたのでした。

なぜナスと枝豆なのかというと、ナスは油との親和性が高く、炒め料理向きで夏バテ防止になるし、枝豆はビールとの親和性が高く、ビールのプリン体と結合して枝豆プリンになりそうな気がしたからです(ウソです)。

その後、丹精込めて育てたナスと枝豆の苗は自然の荒波に翻弄され、ついに7月22日の皆既日食の朝、哀れ枝豆は茶色の細い枝振りに斑模様の葉を2,3枚つけた状態で短い生涯を閉じたのでした。(丹精込めてないのがバレバレです)

枝豆プリンを作る野望は潰えましたが、人間何事も前向きに考えなければ明るく生きていけません。

枝豆の喪失により、ナスのみに愛情を注ぐ体制が確立したのです。いつも二股ではいけないのです(?)。
こころなしか、枯れかけていたナスに明るさが戻ったような気さえします。

これから毎日ナスといっしょだ、と思ったのもつかの間、7月末に急な仕事でうちを空けることになってしまいました。

ある団体が年に1回開催する夏の集会に潜入し、危険な兆候がないかどうかを調査する仕事です。

7月31日から8月2日の2泊3日、場所は去年サミットのあった北海道洞爺湖の温泉旅館です(サミットって、遙か昔のような気がします。あのときの首相は誰でしたっけ?)。

7月31日の午後3時、目的のホテルに到着しました。

その団体の構成員は全国各地に散らばっており、互いの連絡は常に電網経由でそのときの最新の電脳機器を使って行われているようです。

具体的には、基盤としてのメーリングリスト、機動性のTwitter、Google Latitudeによる互いの位置情報の確認等、すべてiPhoneで行われているのです。(一部にPokenでハイタッチしている人がいましたが、今後に期待というところです。。。意味不明の単語は適宜ネット検索をお願いいたします)

この日のために私もiPhone3GSを購入したことはいうまでもありません。
(趣味との噂もありますが・・・必要経費で落ちるでしょうか?)

この団体の表向きの目的は「宴会」をやることです。団体名もそれとわかる巫山戯た名前です。

その団体名をここに書きたいのですが、守秘義務があるので残念ながら書けません。
仮に「宴会連合会」としておきます。
それにしても「連合会」です。

30代後半から50代前半の怪しい風体のオヤジたちが30数名、「連合会」の名のもと、宴会のために南は大阪から北は北見まで最新電脳機器を手にして集まってくるのです。

ホテル側の狼狽の様子がありありとわかります。
『こいつら何者だ。どこの系列か署に確認しよう』
『誰だ、この団体の予約を受け付けたのは?』
声に出さなくてもホテルのフロントから漂う残念感がすべてを物語っています。

私は、潜入のために依頼主が教えてくれた、有力な(?)紹介者の名前を口にして、団体の幹事に挨拶をしました。

しかし、そこは「連合会」です。そう簡単に紹介だけで入れるような団体ではないのです。

幹事曰く「夕食のときにみんなに紹介しますから、まず温泉につかって寛いでください」

言われるがまま、温泉に向かうと、すでに露天風呂につかっている「連合会」の面々が「みんなでフローライダーやろうよ」とか言っています。

新参者がスパイと知ってかどうか、親しげに「いっしょにやろうよ」と声を掛けてきます。

※「フローライダー」とは、大きなすり鉢状の溝(緩やかなU字形)のステージの前方から毎秒何トンという量で噴き出す水に向かって小さなスチロール製のボードで滑り込み、向かってくる水に逆らいながら、いろいろな技を繰り出すスポーツです。って、書いても説明が下手くそで全くなんだか分からないですね。

簡単にいうと、人工サーフィンです(って余計わからないですね。興味のある方は「日本フローライダー連盟」のホームページを参照してみてください。動画も豊富です)

お風呂はいいけど、水泳は避けたい。この私の内なる切実な思い・・・。

昔、面かぶりクロールの練習で洗面器に張った水に顔をつけて溺れたことがあります。
台風の日、うっかり外に出て、顔に強く当たる大量の雨に息継ぎが出来ず、そのまま地上で溺れたことがあります。

鬱々とした日々を送り、酒に溺れたことがあります(違うか)。

そのぐらい水が苦手なのに、成り行き上、「フローライダー」をやることになってしまいました。

通過儀礼というのでしょうか。

「フローライダー」イニシエーションです(やぶれかぶれです)。

100円で借りた水着と500円で借りたボードを握りしめ、轟轟と向かってくる波に颯爽(?)と飛び込みました。

全身に強い水圧を受けたあと、それに抗するように一瞬、波の上にボードと体が飛び出しました。

「もしかして・・・いける?」と思った途端、天地が反転、奔流する水の中から外の様子が見えて、鼻と耳と口に大量の水が飛び込んできました。

一瞬姿が見えたのはお釈迦様でしょうか?
ボードか蓮の葉かわからないものにしがみつきながら、走馬燈になった自分がくるくる回りだし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

管理用土地のナス(語呂が悪いですね。ほんとうは管理用地なのですが・・・)は、紫色の花を3つ咲かせたものの、きのう現在、実を結ぶ気配はありません。

そろそろ秋風も吹いてきました。

選挙に立候補した人たちには、まだまだこれから暑い夏が続くのでしょうが、こちらはすでに心もフトコロもすっかり冷え込んでいるのでした。

「秋ナスは嫁に食わすな」と言った昔の人の真意はどこにあったのでしょうか?
ビールと枝豆とナスの三位一体説を唱えたのは神学者アキナスだったでしょうか?
回転木馬と走馬燈の違いはどこにあるのでしょう?
(・・・つぶやき?)

教訓「Twitterのやりすぎは、現実と妄想の境目をなくすので要注意」(と30年前に亡くなった祖父が言ってました。政治と宗教とプロ野球とPokenの話は人前でするな、とも言ってましたが・・・)

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