第78回 「し」は「四月」の「し」

「し」は「締切」の「し」でもあります。
先月に引き続いて(?)、「締切守れない日記」です。

4月1日

きょうから上映が始まった映画「エイプリールフールズ」(監督:石川淳一、主演:戸田恵梨香、松坂桃李)を観るために近所の映画館に出かける。

驚くべき事に、朝から15時までの回がすべて満席。夕方17時のが観られるようだが、諦める。

きょうは平日なのに、何故こんなに混んでる?・・・そうか、映画の日で春休み中なのだ。。。

仕方がないので、映画館のある建物から出ると、携帯に電話が。
私を我が子のように育ててくれた母からだった。
「○○叔父さんが交通事故で××病院に入院してるのよ」
××病院は私のうちから歩いて5分の場所だ。
早速お見舞いに行くことに。
病院に到着して受付で、叔父の病室を尋ねると、401号室と教えられた。
4月1日に401号室とは嘘のような話だが、本当だ。

401号室に行ってみると、4人部屋で入り口のところに叔父の名前も書いてある。

「こんにちは・・・」と恐る恐る病室の入り口で挨拶をすると、ベッドに横たわっている3人の老人が私を見ていた。

「あれ?」
みんな非常に歳を取っていて、疲れた表情をしていて、叔父のようにも見えるし、他人のようにも見える。少なくとも叔父以外は他人だ。(当たり前か)

一瞬、数年ぶりで会う叔父の顔が思い出せなくなる。

仕方がないので、「○○叔父さん、こんにちは」と言ってみる。
2人は目をそらして、近くにいた老人がニッコリ笑った。
近づいて「あ、叔父さん、大丈夫なんですか?驚きましたよ」と声をかけると、「○○さんは今、検査に行ってるよ。そのあとリハビリだから、2時間は戻ってこないね」
「そうですか。そうだと思いました」と訳のわからない返事をして、病室を出る。
叔父さんはまだしばらく入院してるだろう、また後日来よう。

病院の外に出ると、やけにうるさい声がする。
「市長に立候補いたしました△○です。風通しのいい市政、嘘のない誠実な市政を実現します」
そうか、統一地方選なのだ。立派な公約をたくさん掲げているようだ。
きょうは思う存分やってほしいと思うのだった。

うちに帰ってテレビをつけてみると、夕方のニュースで地元の大手企業の入社式の様子が映し出されていた。
社長らしき人が「お客様第一の当社は、社員も第一に考えています。皆さんが当社の仲間として一日に早く立派に成長することを願って止みません」的なことを訓示している。
きょうは思う存分やってほしいと思うのだった。

PCを開いてメールをチェックしてみると、美人編集長Uさんからメールが来ていた。
「念のため、確認ですが、明日が締切ですので、よろしく」と。
「はい、わかってますと。今書いてますので、少々お待ちを」と返事を返しておく。
きょうは思う存分やってみたいと思うのだった(?)。

筒井康隆著「現代語裏辞典」によると「嘘」の項目には、ひとこと「わたしは嘘はつかない」と書いてあるだけだ。

4月4日

きょうは皆既月食だ。

つい最近も月食だか、日食だかあったような気がするのだが、学食で定食を食べてきた私にとっては、いささか食傷気味だ。

「皆既月食のもとで眺める夜桜は神秘的なものでしょうね」とテレビで気象予報士のお姉さんが言っている。
「でも、きょうはお天気が良くないので、北海道以外では月食は見られません」
とにこやかに笑うお姉さん。
それじゃ、だめだろう!とテレビに突っ込みを入れてみる。

私はたまたま北海道なので、皆既月食を見ることが出来そうだ。
毎年この時期になると梶井基次郎の掌編「桜の樹の下には」を思い出す。

夜桜のあの妖しい雰囲気は人を不安にさせずにはいられない何かがある。
その不安にさせる何かとは何なのか?それを梶井基次郎自身も感じ、そして自分なりの解答を導き出したのだろう。

夜桜の魔力は魅力であり、人を無力にさせ、目力を無くさせて喪力となる。
(なんのことやら、さっぱりだ)
破力は非力で浮力が屁力で補力だ。(って、言いたいだけだ)

それにしても皆既月食下の夜桜見物は楽しみなのだが、北海道の桜の開花は4月末なのだ。

その頃に、また月食にならないものか、あの気象予報士のお姉さんに聞いてみたい。

4月5日

きょうはビール醸造コンテストの発表の日。
昨年の優勝から早くも一年が経過したのだ。

2月に仕込んだビールが、今日解禁となり、ビールマイスターの審査を受け、その結果が発表される。

ディフェンディングチャンピオンとしては、なんとしてでもまた優勝、少なくとも入賞はしておきたい。
と、入れ込んでみても、2月に仕込んだビールは今さらどうしようもなく、ただただ結果を待つしかない。

今11時で、結果発表は14時30分からなので、例によって、できたてのビールをいただく。

今月のビールはヘレスビールだ。
ドイツの伝統的なラガービールは色の濃いコクのあるドンケルビールだが、このヘレスは色が淡く、ピルスナーに近いラガービールだ。口当たりがよく飲みやすいのだ。

3800円の会費でビールに合う食材(ソーセージ、プレッツェル、ロテサリーチキンなど)を食べ放題で、ビールは一人20杯までという破格な内容なので、つい飲み過ぎるのだ。
14時30分までには20杯くらい飲めそうだ。。。

で、かなり頑張って飲んだけれど20杯には届かず、作ったビールも入賞には届かず、帰りの電車の中で酔いが回って、自分も自宅まで届かず・・・。

締切もとうに過ぎて、美人編集の面影が怪奇月食のように、現れては消え、頭の中をぐるぐるとまわるのでした。

教訓:ビールの飲み過ぎで、と誤魔化そうにも、締切は許してくれない。ただ、私は嘘はつかない。

201504f

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